約 774,123 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/221.html
あらすじ ハルヒは機関からの使いの古泉一樹の そのもくろみを打ち砕くべく 閉鎖空間へと乗り込む! ハルヒ「ここからは修羅場よ、キョン!」 キョン「ちょ…ちょっと待て、なんか自然に俺も行くような空気になってない?」 ハルヒ「心配しないで、行く前にちょっと準備したいだけよ。ちょっとそれに付き合ってもらうだけ」 キョン「そ、そう?よかった」ホッ ハルヒ「相手が相手だからそれなりの用意をしていかないと、あたしは平気だけどキョンが危ないもんね」 ハルヒ「じゃあ、行くわよ」 キョン「(あれーなんかおかしくなかった今の―――――!?)」ガビーン 今日はクリスマスという事でSOS団でプレゼント交換することになりました ハルヒ「よーし、じゃあさっそく始めるわよ」 ハルヒ「誰がどのプレゼントを引くかは運しだい!フフフ…」 みくる「ド…ドキドキしますね!」 キョン「俺のショボイから引いた奴ゴメンな!」 ハルヒ「あたしは正直…古泉君のだけは引きたくないと思ってる。それはホントにあたしの今の正直な気持ちよ…」 キョン「………」 みくる「………」 長門「………」 古泉「なにまじめな顔で告白してんのーーーーー!?」 古泉「僕のプレゼントすごいですよ!?絶対みんなうらやましがると思うよ! 正直僕自分で欲しいくらいですもん!アハハ……」 ハルヒ「………」 キョン「………」 みくる「………」 長門「………」 古泉「あれ…なに?ちょっとなにみんなで変な空気出してるんですか!?」 ハルヒ「まあ…ウジウジしたって仕方ないわ…。どんなの引いても恨みっこなしよ!」 オウ!! 結局、古泉は自分で自分のプレゼントを引きました。 アニメ第7回 ミステリックサインにてカマドウマと対峙したキョンたち!しかし、古泉はなぜかマムシに噛まれ帰らぬ人になってしまった! キョン「よーしじゃあコンピ研の部長を助け出すか」 みくる「長門さんホントに一人でいいんですか?」 長門「うん全然平気」 キョン「じゃあ、古泉の分までバリバリ敵を倒そうぜ!」 長門「うん…最初からそのつもり」 みくる「(よかった…みんなもうこの5分たらずの間に古泉君を失った悲しみを乗り越えたようですね…)」 みくる「よーしみなさん!!亡き古泉君の為に…!!倒しまくりましょう!!」 俺たちの戦いは始まったばかりだ びち~ん! タケシ君「いでっ」 タケシ君「うわあーーん!あのお姉さんにデコピンされたぁーーーー!!」 子供B「何すんだよお姉さん!先生に言うぞ!!」 みくる「私の前でヘラヘラしてるからですよ。先生に言いたきゃ勝手にドウゾ。 そもそも私が君に何かしたって証拠があるんですかぁ?ンフフフ…」 タケシ君「ヘ…ヘラヘラってここ公園じゃん!」 子供C「タケシ君がやられたって言ってるのが証拠だよ!」 みくる「ハァーッハッハッ!そんなの大人の世界じゃ通用しないんですよ!」 痛ッ…!さっきのデコピンで骨が…!(ズキンズキン) 子供たち「き…汚ねえ…大人は汚ねーよ!」 ガマンだ…絶対にばれる訳にはいかない!これが大人の強さじゃい!(ズキンズキン) 今日俺は長門の料理の練習台として長門宅に来ている。 もちろんハルヒもおもしろがってついて来ている。くっそーにやにやしやがって。。 どうやら料理が出来たようだ。ハルヒが蓋を載せたお皿を持ってくる。。 ハルヒ「はい、どうぞ」カパッ キョン「お…ケーキ。モンブランか…?」 よかった。それなりにおいしそうじゃないか…。 ハルヒ「フフ…まあ食べてみなさい」 長門「………」ジーッ キッチンの向こうから長門も覗いている。もう逃げる事もできないか…。 まあ、見た目も悪くないし、これならそう不味くもないだろう。それでは頂くとするか。 キョン「どれどれ…」ぱくっ 長門「………」ジーッ キョン「むっ!?」 こ…これは!?ただのモンブランかと思ったら生地の中に何かのクリームが…マロンじゃないぞ! この食感…そして鼻の奥に突き抜けるこのスパイス臭は…カレーだ―――!! ケーキとカレーの見事な融合。 なぜだ…なぜこんなにも涙があふれるんだァーーー! キョン「まじいからだよ!!」ブホォ!! ゴワシャア ハルヒ「ヒィィィィ!!」 長門「!?」 キョン「噛めば噛むほどくそまじぃよ!!なんでもっとまともな料理作らないのーー!?」 長門「ヒィィィ!私の…私のカレーがぁぁ!!」 キョン「ケーキですらねぇのかよ!!」 ハルヒ「キョンそれは何のまねをしているの?」 キョン「これか?さぁーてなんだろねー知らないねーふふっ」 ハルヒ「(ああっいいわいいわ面白そうだわ。私もやってみたいわ)」 キョン「ふ~楽しかったキョンガリレイ」 ハルヒ「(ファ~~キョンガリレイ興味深い~~)」 ハルヒ「ね…ねえキョン【キョン】「断る」 ハルヒ「…………。ふふふっ、もちろんタダとは言わないわこれでどう?」ペロン キョン「?……!?そ、それは…」 ハルヒ「そうあんたが大好きなマジカル少女ユッキーの舞台チケットよ」 キョン「あ…あぁああぁ…」 ハルヒ「どう?もしキョンがそのキョンガリレイをあたしにくれれば…」 キョン「やるーーーーー!!!」キュピーン ハルヒ「え?いいの?じゃあこれ…」 キョン「ああ、そいじゃこれも。ありがとうハルヒー!ヒャッホォ~イ!マジカルユッキーキター!!」 ピューッ ハルヒ「あっ、キョン!………。」 ごめんね、キョン…。そのチケットの期限実は今日までなのよ…。 30分後 ハルヒ「ふ~堪能したわ。あれ?みくるちゃんキョンは?」 みくる「あ、涼宮さん…それがどうしても投げ出せない用事が出来たとかで帰っちゃいました」 ハルヒ「………ぁ」 みくる「あ?」 ハルヒ「あほ~~~~!!!!」 それは上ヶ原パイレーツと試合をする5分前の出来事だった。 ハルヒ「ほんと~~~に行かないのね、アンタたち?いいの?知らないわよ。 すっごい珍しいクワガタ捕れちゃうわよ。後で言っても触らせてあげないんだから」 古泉「え…えと」 キョン「俺たちはいいよ…」 ハルヒ「マトトぶっちゃって!!後でホエづらかくんじゃないわよっ!!」 バターン! キョン・古泉「………」 古泉「ううう…しまった…意地はらないで僕も行けばよかった…(ふるふるふる)」 キョン「行きたかったのか?どうせ何も捕れずにすぐ戻ってくるさ。 こんな都会にクワガタなんていないんだから…」 ガチャ ハルヒ「ただいま――!」 古泉「早っ!!」 キョン「ほらな」 ハルヒ「フゥ~~~~ッ」 キョン「朝倉ーーーーーーっ!!」 ハルヒ「捕れちゃった…すごいの捕れちゃった…ウフフフh」 古泉「ええ~~マジでスゴイ!!なにそのクワガタ…そんなん初めて見た!!」 キョン「……??」 ハルヒ「ちょっとぉ~あんま見ないでよ。あたしのヒトクワガタ」 古泉「ヒトクワガタ!!ス…スゴイ!!マジでスゴイ珍種なんだそれ!」 何やってるんだこいつらは…朝倉も…うわっ今目があったぞ。 キョン「いやあの…それクワガタじゃないと思うぞ…」 ハルヒ「ハハハは、よしなさいよキョン。負け惜しみは止しなさいよキョンく~ん」 朝倉「あ…あのー」 キョン・ハルヒ・古泉「!!」 朝倉「コレ苦しいんだけど、もう出てもいいかな?」 キョン・ハルヒ・古泉「………」 ハルヒ・古泉「クワガタがしゃべったーーー!!」 ヒトクワガタってしゃべるんだーーーー!!? キョン・朝倉「………」 相撲大会に出場し順調に勝ち進む長門、しかし、決勝の相手はおそらく史上最強のホモ・古泉一樹だ!どうする長門!? 古泉「喰らえ!テドドン!!」 対戦相手「うわぁ~~~~!!」 キョン「あんなのとまともにやったら壊れるな長門…」 ハルヒ「ええ…でも都合のいいことに彼と当たるのは決勝だから、負けても準優勝よ」 キョン「なんだ?そりゃ都合がいい。じゃあ決勝は棄権するか」 長門「大丈夫、私は負けない」 キョン「え!?いやいや止せって長門!ホントにめちゃくちゃにされるぞ!」 ハルヒ「そうよ有希!無理して体壊してもなんにもならないわよ」 長門でも私やりたい… キョン「ははーん、さてはお前賞品目当てだな?よせよ!何が欲しいか知らんが命より大事なもんはないぞ!」 長門「そんなんじゃない!私試してみたい。心を持たないインターフェイスの私がどこまでやれるのかを…!」 キョン「いや…だから準決勝までだよ。そんなもんだって人生」 長門「!!?」 新川「ハァーハッハッ!その通りだよお嬢ちゃん!うちの古泉は向かってくる相手には容赦できないタチなんでね。 怪我しないうちに棄権した方が身の為ですぞ。」 長門「ムッ(カチーン)。…やってみなくちゃわからない」 新川「おやおあや、ホラにいちゃんお前からもよーく言い聞かせてやんな」 キョン「あ~~?」ギロリ 新川「え!?」ビクン キョン「そんなもんやってみなきゃわかんねえだろ…」ゴゴゴゴゴ… 新川「えっ!?」 キョン「てめぇ誰に向かってクチきいてんだコラ!?」 新川「いや…」 キョン「他人のくせに長門の悪口言ってんじゃねえよ! なんならここで代理戦争しとくか?お?」ベロリ ハルヒ「きょ、キョンさぁーーん!!」 ハルヒ「すす、すいませんこの人ちょっとアレだから…」 新川「は…はあ」 キョン「えーい離せハルヒ!そいつのひげぶっこ抜いてかわりにまじっくで…」 ハルヒ「い…いいから行くわよキョン!!」 みくる「ふぇぇ~、失礼しましたぁ~~~」 新川「………。(ビ…ビックリしたぁ~~~~。なんでしょうあれ、殺し屋?)」ドキドキドキドキ
https://w.atwiki.jp/haruhi-2ch/pages/72.html
涼宮ハルヒの憂鬱Ⅴ(2006年放送版第13話、構成第05話・DVD版第06話/2009年放送版・時系列第05話) スタッフ 脚本:志茂文彦 絵コンテ:北之原孝将 演出:北之原孝将 作画監督:米田光良 原作収録巻 第1巻:『涼宮ハルヒの憂鬱』より第6章のP217からと第6章の最後まで(P249まで)。計32ページ分をアニメ化。 DVD収録巻 『「涼宮ハルヒの憂鬱」第3巻』に収録。 紹介 前半は、ハルヒとキョンで朝倉の住んでいたというマンションに向かう。後半は古泉とのシーンと明確に分けられており、他の回に比べてゆったり尺が取られている。 古泉の話は『涼宮ハルヒの憂鬱 III』での証拠を見せようという趣旨もあるようだ。 古泉とキョンの会話のシーンで寝てしまったという人もいるらしいw。 2006年放送順では次回が最終回、時系列(DVD順)でも次回は憂鬱編のクライマックスとなり伏線がそこらどこらに散りばめられている。 2006年放送順の提供バックのねこマンは『じじねこマン』。(DVD第05巻に収録) 次回予告 TV版(『涼宮ハルヒの憂鬱』第3巻に収録): ハルヒ:次回涼宮ハルヒの憂鬱第6話! キョン:違う!次回涼宮ハルヒの憂鬱第14話、『涼宮ハルヒの憂鬱 VI』。じゃ、またな。 ハルヒ:お風呂入れよ!歯磨けよ! キョン:私たち、普通の女の子に戻ります。 ハルヒ:我がSOS団は永久に不滅でーす! キョン:来週もまた見てくださいね!じゃーんけーんぽーんっ! ハルヒ:バカーッ!! キョン:見えねぇ! DVD版: 有希:次回、『涼宮ハルヒの憂鬱 VI』。見て。 放送版とDVD版との違い エレベーターシーンで追加カット、踏み切り前のシーンで追加カットなど。 マンション前で長門と会うシーンのマンションの壁を修正など。 マンションからハルヒとキョンが帰るとき、ハルヒの話しかけるタイミングが違う。 パロディ・小ネタ キョン、古泉が閉鎖空間に入ったところは大阪府大阪市の梅田あたり。 EDテロップで、ハルヒが1段目に1人きり、2段目にキョンと古泉がくっついて表示されている。前者はハルヒの心情を示したもの? 次回予告ネタお風呂は入れよ、歯磨けよ→ドリフ。 私たち、普通の女の子に戻ります。→昭和のアイドルグループキャンディーズの引退宣言。 我がSOS団は永久に不滅でーす!→巨人終身名誉監督長嶋茂雄が現役引退時に述べた言葉。 来週もまた見てくださいね!じゃーんけーんぽーんっ!→サザエさんの次回予告。 キャスト・スタッフ(詳細) キャスト 1段目 涼宮ハルヒ:平野綾 2段目 キョン:杉田智和 古泉一樹:小野大輔 長門有希:茅原実里 管理人:青野武 スタッフ 脚本:志茂文彦 絵コンテ:北之原孝将 演出:北之原孝将 作画監督:米田光良 動画検査:栗田智代 美術設定:田村せいき 美術監督補佐:平床美幸 色指定検査:石田奈央美 制作マネージャー:富井涼子 原画 高橋博行 紫藤晃由 大藤佐恵子 松尾祐輔 端 由美子 松尾恵里 内藤直 大更麗子 中野江美子 米田光良 動画 佐藤綾 紅林誉子 黒田比呂子 多田夏美 細田はな 仕上げ 北岡なな子 嶋智子 山森愛弓 背景 細川直生 鵜ノ口穣二 袈裟丸絵美 加藤夏美 川内淑子 松浦真治 伊藤豊 撮影 中上竜太 田中淑子 高尾一也 山本倫 石井和沙 浜田奈津美 梅津哲郎 (ポストプロダクションなどは省略) 放送日程 2006年(野球中継などは考慮せず) チバテレビ:2006年6月25日24時00分-24時30分 テレ玉:2006年6月25日25時30分-26時00分 tvk:2006年6月26日25時15分-25時45分 KBS京都:2006年6月26日25時30分-26時00分 テレビ北海道:2006年6月26日26時00分-26時30分 サンテレビ:2006年6月27日24時00分-24時30分 TBC東北放送:2006年6月27日26時00分-26時30分 東京MXテレビ:2006年6月28日25時30分-26時00分 テレビ愛知:2006年6月28日26時28分-26時58分 広島ホームテレビ:2006年7月1日26時05分-26時35分 TVQ九州放送:2006年7月1日26時40分-27時10分 2009年 サンテレビ:2009年4月30日24時40分-25時10分 テレ玉:2009年4月30日25時00分-25時30分 新潟テレビ21:2009年4月30日25時45分-26時15分 東京MXテレビ:2009年5月1日26時30分-27時00分 tvk:2009年5月1日27時15分-27時45分 TVQ九州放送:2009年5月2日26時40分-27時10分 テレビ和歌山:2009年5月3日25時10分-25時40分 テレビ北海道:2009年5月4日25時30分-26時00分 KBS京都:2009年5月5日25時00分-25時30分 広島テレビ放送:2009年5月5日25時29分-25時59分 チバテレビ:2009年5月5日26時00分-26時30分 奈良テレビ:2009年5月5日26時00分-26時30分 仙台放送:2009年5月5日26時08分-26時38分 メ~テレ:2009年5月5日27時55分-28時25分 Youtube:2009年5月6日22時00分-2009年5月13日21時59分(1週間限定配信) RKK熊本放送:2009年11月15日25時50分-26時20分 DVDチャプター アバン(0:00~0:32) Aパート開始(2:02~3:37)※題名無しはぁ?(3:38~6:00) 気をつけて・・・(6:01~9:18) 涼宮ハルヒの憂鬱(9:19~11:00) Bパート開始(11:01~13:19)※題名無し3人の存在理由(13:20~15:25) 目的地へ(15:26~17:13) 閉鎖空間(17:14~19:08) 神人(19:09~21:03) 帰宅(21:04~23:10) 使用サントラ 0 00~0 31『憂鬱の憂鬱』サントラ02収録 0 32~2 02 OP 2 03~3 37 SE 3 38~5 32『非日常への誘い』サントラ08収録 5 33~6 58 SE 6 59~9 18『ハルヒの告白』サントラ04収録 9 19~11 34 SE 11 35~13 20『恐怖のはじまり』サントラ06収録 13 21~14 22 SE 14 23~17 13『ミステリータイム』サントラ06収録 17 14~17 29 SE 17 30~19 10『閉鎖空間』サントラ04収録 19 11~20 37『神人』サントラ04収録 20 38~21 02『閉鎖空間』サントラ04収録 21 03~21 41 SE 21 42~23 10『ザ・ミステリアス』サントラ02収録 23 11~24 15 ED 24 16~24 31『冒険でしょでしょ?予告アレンジ』サントラ02収録 一覧 新アニメ 1期時系列 1期放映順 DVD 原作小説(巻) コミック収録巻 アニメサブタイトル #01 第01話 第ニ話 第01巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 I #02 第02話 第三話 第01巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 II #03 第03話 第五話 第02巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 III #04 第04話 第十話 第02巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 IV #05 第05話 第十三話 第03巻 憂鬱(1) 第02巻 涼宮ハルヒの憂鬱 V #06 第06話 第十四話 第03巻 憂鬱(1) 第02巻 涼宮ハルヒの憂鬱 VI #07 第07話 第四話 第04巻 退屈(3) 第03巻 涼宮ハルヒの退屈 #08 - - 新第01巻 退屈(3) 第03巻 笹の葉ラプソディ #09 第08話 第七話 第04巻 退屈(3) 第04巻 ミステリックサイン #10 第09話 第六話 第05巻 退屈(3) 第04巻 孤島症候群(前編) #11 第10話 第八話 第05巻 退屈(3) 第04巻 孤島症候群(後編) #12 - - 新第02巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #13 - - 新第02巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #14 - - 新第03巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #15 - - 新第03巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #16 - - 新第04巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #17 - - 新第04巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #18 - - 新第05巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #19 - - 新第05巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #20 - - 新第06巻 溜息(2) 第05巻 涼宮ハルヒの溜息 I #21 - - 新題06巻 溜息(2) 第05巻 涼宮ハルヒの溜息 II #22 - - 新第07巻 溜息(2) 第05-06巻 涼宮ハルヒの溜息 III #23 - - 新第07巻 溜息(2) 第06巻 涼宮ハルヒの溜息 IV #24 - - 新第08巻 溜息(2) 第06巻 涼宮ハルヒの溜息 V #25 第11話 第一話 第00巻 動揺(6) 未制作 朝比奈ミクルの冒険 Episode00 #26 第12話 第十二話 第06巻 動揺(6) 第06巻 ライブアライブ #27 第13話 第十一話 第06巻 暴走(5) 第07巻 射手座の日 #28 第14話 第九話 第07巻 オリジナル 未制作 サムデイ イン ザ レイン
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3027.html
俺が北高で過ごした七転八倒の高校生活から9年が過ぎた。 我が青春のすべてを惜しみなく奪っていったあのSOS団も自然解散とあいなり、宇宙人・未来人・超能力者と連中にまつわる 頭の痛くなる事件の数々から晴れて解放された俺はあの頃希求してやまなかった健康で文化的な最低限度の生活ってやつを取り戻していたわけだ。 「つまらねぇ」 おいおい俺は何を考えている。 赤点ぎりぎりの成績にお似合いの大学へ進学し、大きくも小さくもない身の丈に合った企業に就職し…… 特別なことなんて何もない、まともな人間にふさわしい普通の生活だ。これ以上何を望むってんだ? 「まるで靄のかかったような……実感の湧かない生っ…!」 馬鹿馬鹿しい。 この俺が『特別な世界』でどんなに無力で場違いな存在かはあの頃散々思い知らされたじゃないか。 明日も早いんだ。こんなとりとめもないことを考えるくらいならさっさと寝ちまおう。 俺は自分に言い聞かせると、畳の上に放置していた今日の朝刊を押し退けて布団に潜りこもうとした。 「……冗談だろ?」 何げなく目を落とした紙面の一角に、俺の目は釘付けになっていた。 『涼宮ハルヒ 逝去につき以下の通り葬儀・告別式を執り行います』 「もしもしあの、新聞を見まして…亡くなった涼宮ハルヒさんというのはどういった…」 あのハルヒが死んだなどと、事実であろうはずがない。お世辞にもありふれた名前であるとは言えないが、 浜の真砂ほど日本国民をひっくり返せば同姓同名の気の毒な涼宮ハルヒさんがいてもおかしくない筈だ。 そんな事を考えながら俺は死亡広告に記載された連絡先に電話をかけていた。 『……その声は、あなたですね?お待ちしていました』 間違いであって欲しい。そんな思いを裏切った電話口の声はあの頃と何も変わっていなくて。 「古泉か」 『ええ、お察しの通り。お久しぶりです』 「どういうことだ」 『ご覧になった通りです。……亡くなられたのは、あの涼宮さんですよ』 次の日俺は仕事を休み、ハルヒの告別式が行われるという郷里の鶴屋邸に向かった。 葬儀委員長なる肩書きを背負って忙しげにしている古泉を捕まえて型通りの挨拶を済ませ、祭壇へ歩み寄って焼香をする。 詳しい事情の一切省かれたあの広告に加え、電話した時古泉も口をつぐんでいた事から尋常な死に方ではない ──『機関』だか何だかの抗争に巻き込まれたとか。葬式を鶴屋さんの屋敷でやるというのも臭いしな── 最悪遺体の欠片も残っていないんじゃないかと覚悟はしていた。 「ハルヒ……?」 しかし棺からその一部を覗かせたハルヒの死に顔は安らかというか、まるで。 「お時間よろしいですか?」 忙しいのはお前の方だろう、古泉。それでこれからどうなる?できれば焼き場での見送りまで参加させてもらって色々と確かめたいところだが。 「いえ、今日はこのまま限られた参列者の方々と通夜に移ります。あなたにはこちらに加わって頂きたいのですが」 それは構わんが普通は通夜の後に告別式というのが筋じゃないのか?あいつの葬式らしいと言えなくもないが、何から何まで妙なことばかりだ。 「それでは少々お待ちください。本日の喪主をご紹介しますよ」 喪主だと?俺はハルヒの家族の事など何も知らない。場所を貸してる鶴屋さんという線もあるだろうが、俺はむしろ別な可能性を…… 「ヤッホー!よくぞここまで辿り着いたわね。褒めてあげるわ! ……ってリアクション薄いのね。少しは驚きなさいよバカキョン!」 ご丁寧に『超喪主』の胸章をぶらさげたそいつに俺は昔とそっくり同じ反応を返してやったよ。 やれやれ。 それにしても趣味が悪いなハルヒ。 本人がピンピンしてるのに神妙な顔で集まったあんな沢山の人たちに悪いと思わんのか? 「まああたしの為に遠くから来てもらって申し訳ないとは思ってるわよ。 みんなの顔を見ておきたいっていうのがそもそもの目的だしね」 それだけのためにあんな広告まで打ちやがったのか。 端から期待はしてないが少しはNOと言えるアナリストを目指した方がいいぞ古泉。 「すいません……うっ」 いつものニヤケ顔はどこへやった古泉よ。そこまで恐縮することもないぞ? 何で、お前はそんな泣きそうな、──まるで本当にハルヒが死んだような顔をするんだ── 「これは正真正銘あたしの葬式なのよ、キョン。あたしはこれから数時間後に死ぬ──死ぬ手筈になってるの」 通夜の席が設けられた屋敷の一室にはすでに見知った顔が並んでいた。 高校を卒業して実家の家督を継ぎこの屋敷の主人となった鶴屋さん。俺とハルヒの担任だった岡部。10年でずいぶん老けましたね先生。 喪服姿の艶めかしい奥様になった阪中に、当時はさんざん迷惑をおかけしたコンピ研部長氏。 相変わらずなアホ面に精一杯のシリアス成分を配合してるのは谷口じゃないか。そして、 「お前も来てたのか、佐々木」 他の面々と少し距離をとって座る佐々木は無言で目礼すると、俺にも席につくよう促した。 「皆さんお揃いになったところで、改めて説明したいと思います」 古泉が口火を切った。いつもの微笑みとも先刻の泣き顔とも違う固い表情だ。 「まずはこれを見てもらいましょう。涼宮さんの頭部を撮影したMRI写真です」 「正常な物と比較しないと判りにくいかもしれませんが、明らかに脳全体に白い病変が確認できるかと思います」 「……訳が分からねぇよ!涼宮の体に何が起こってるって言うんだ!?」 「谷口君、そして皆さん。涼宮さんの病名は……アルツハイマーです。極めて進行が早い、若年性のタイプの」 「既に脳細胞の多くが死滅。認識能力・学習能力に不可逆のダメージが出ています。 現在涼宮さんが彼女を彼女として定義している特異な人格を保っているのも奇跡的な状態 あと数年で確実に廃人、そして死を迎えるでしょう。我々の医学ではそれを防ぐ術はありません…」 岡部の喉からくぐもった嗚咽が漏れるのが分かった。俺はといえば、ただ何も言えず古泉の顔を見返すことしかできない。 「そして涼宮さんは、己を保っていられる間に自分の手で生涯を閉じることを選択されました。 僕は彼女の決断を尊重し……そのための手段を提供しました。 我々の用意した装置はスイッチ一つで彼女の体内に昏睡と心筋の麻痺を 引き起こす薬剤を注入し、無痛の心臓発作によって死に至らしめるでしょう」 「決行は今夜過ぎ。それまでの数時間、僕とここにお集まり頂いた皆さん 一人ずつ順番に涼宮さんと最後の時を過ごすことができます。 ……それぞれが決めて下さい。彼女を止めるか、それとも黙って見送るか 心の決まった方から涼宮さんのもとへ」 「最初は、僕が行きます」 こうして今はまだ生きているハルヒの通夜が始まった。 俺達それぞれがハルヒとの最後をどう締めくくるかという、答えがたい課題を突きつけられた形で…! ~一人目 古泉一樹~ 「やっぱり最初は古泉くんだったわね」 僕が涼宮さんが最期を過ごす場所として用意した鶴屋邸の「離れ」に入ると、 彼女は普段と変わらぬくつろいだ調子で第一声を放ちました。 ……それはそうでしょう。他の皆さんは急に事情を知らされたばかりで、少なからず混乱している。 それにここまでお膳立てさせて頂いたからには一番槍の名誉くらいにはあずかっておきたいですしね。 「そう、今回は話の分かる友達がいてくれて本当に助かった……感謝するわ」 貴女の世話を焼くのは僕の使命でしたからね。9年前も、そして今も。改めて礼にも及びませんが 「何というか、逆だと思うのよ。死んでからみんなに集まってもらっても当人には何が何だかわからない… せっかく集まってもらうなら、死ぬ前に会い、話があるなら話しておくべき……」 なるほど。 「死ぬ前に話すならあの高校時代の仲間たち。そこでこうして古泉くんに無理を言ったわけ」 そんなことは構わないんですが、涼宮さん…本当に、これでいいんですか? 「本当に……これで死んでしまって…っ」 「もちろん!」 涼宮さんは、あの頃時折彼や長門さんにだけ向けていた穏やかな笑みを見せてくれました。 「掛け値なし……あたしはこのまま死にたいの」 僕はずっと迷ってきました。こんなことを…… 10年以上の付き合いの、僕を友達と呼んでくれる人の死に手を貸すような真似をしていいのか…? 平静を装ってこんなことができる僕は…本当に冷たい人間なんじゃないか?と 「それは違うわね。冷たい人間がこんな面倒に首を突っ込んだりする?冷たい奴っていうのは、いつだって傍観者なの」 「古泉くんは、温かい人よ」 「……一つだけ、一つだけ約束してもらえませんか」 僕にはもう貴女を止めることはできません。でも、これから僕以外のみんなが、それぞれのやり方で引き止めようとするでしょう。 少しでも心が動いたら。やめよう、延期しようと思ったら、意地で死んだりしないで下さい…! 「それを…誓ってくれませんか」 死ぬときは、心から死ぬ…… 「次、行ってください…考えの決まった方…!」 ハルヒの下から戻ってきた古泉の呼びかけに、まず呼応したのは。 「あたしが行く。いくら病気でも、ああして元気なのに…まだ命の灯があるのに、死ぬなんて間違ってるのね」 あたしが涼宮さんを止めてくる… 二人目は、阪中…… 阪中がこの部屋を出ていって20分。重い沈黙を破ったのは谷口だった。 「俺も阪中と同意見だっ…」 「認めねぇ。そりゃああいつ自身の決断を尊重すると聞けばもっともらしい話だと思うが… 人が一人、それもあの涼宮が死のうって時に…そんな物分かりのいい事を俺は言いたくねぇっ……」 確かにお前の言う通り、俺たちの誰もハルヒに死んでほしいなどと考えてはいないさ。 だが……あのハルヒが正常な意識のもとで下した結論ならば、そうそう翻るとは思えないじゃないか。 どんな言葉をあいつにかければいいって言うんだ? 「涼宮じゃねぇっ……俺だ!俺が涼宮に生きて欲しいんだ!俺は俺の気持ちを尊重して行かせてもらうっ…」 相も変わらず空気の読めない三国一のバカ、谷口。 うつむいた目を赤く腫らして帰ってきた阪中と入れ替わりに離れへ向かう 奴の背中を見送りながら、残された俺はひどく悲しい予感にとらわれていた。 谷口の言葉は真っ直ぐで、その想いは誰より純粋だ。何の嘘も飾りもない心情をぶつけるにちがいない。 ……だが、それでもハルヒの心を動かすには至らないだろう。 心と心の不毛なすれ違い……ハルヒが最期に望んでいるのは…もっと別の何かじゃないのか……? 二人目阪中 三人目谷口 四人目岡部 いずれも説得ならず…… 「当然の結果だね。あの団長さんが人に説得なんてされるものか」 「勝負だよ、勝負!生き死にを賭けた真剣勝負っ…」 五人目、コンピ研部長に秘策あり 「この僕が倒すっ……止めてくる…」 「あの高校時代に受けた精神的苦痛と敗北感…忘れようにも忘れられないっ…!死ぬ前に僕と勝負し」 「いいわよ?」メキメキ…「おおおおおっ!ギブギブ!」 勝負という言葉を口にした刹那、僕の頭は万力のような握力で締め上げられた。 蹴りが飛んでこなかっただけまだマシだが、相変わらずムチャクチャだ!人の話を聞けっ! 「勝負とは口に出したその瞬間から始まるのよ。敗者が後から何を言おうと 言い訳でしかないわ。…顔色が悪いわね。何か飲む?」 顔色が悪いのは君のせいだよ。 僕の心の声を盛大に無視した団長さんは離れの一角に置かれた机からグラスを取り出した。 「ジュースでいいわよね」 お心遣いはありがたいので果物鉢のリンゴを素手で握り潰すのはやめてください。おたくはどこのエリック一家だ。 「日の当たらないオタク暮らしでちゃんとビタミン摂ってないからそんな青白い面になるのよ。 …それで何の話だっけ?コスモクリーナーなら渡さないからね」 通夜の席に下品な男は無用だ。早く本題に入らないと。僕の精神が保ちそうにない… 「最初に言った通りだ。あの頃の無念を晴らすため、この僕と決着をつけてもらおうっ…」 「フフッ…それでそんな物わざわざ持ってきたわけ?」「そうさ」 僕は携えてきた二つの鞄からノートPCを取りだし、卓上に広げた。 「The Day of SagittariusⅢ…こいつで生き死にを賭けた勝負だ」 「生き死に……?」「そうだ。もしこの勝負で僕が負ければ」 鉢に盛られた果物に添えられたナイフを取り、自分の喉元にあてがう。 …例え手は震えていても、僕の心が震えることは決してないだろう。 「死のうっ……その代わり僕が勝ったら…君は生き抜くんだ。何があろうとも」 死にたい人間を殺しても意味はない。僕が勝ったら君の命は僕が預かる… 「面白いわね。辛気臭い話や説教が続くと気が滅入ってくる… それより割り切って勝負に持ち込まれた方が気も楽…」 「でも、ちょっとそれは無理ね」 「どうしてっ……!?」 「あたしにはもう…そんな難しいゲームは分からないのよ…」 くうっ…… 「同じゲームは使うが…別の種目だっ……」 「余計な要素は一切なし…純粋な一対一の勝負っ……」 ハルヒ対コンピ研部長 その決着はThe Day of SagittariusⅢ タイマン一本勝負… (ククッ……) 本来ならば、誰が相手であろうと僕に圧倒的に有利な勝負だ。 この僕自身が高校時代に設計したゲーム……システム自体はベーシックなものだが、 デバッグ作業と合わせての累計プレイは数百時間ではきかない。 たとえ類似のメジャータイトルをどんなにやり込んだプレイヤーを相手にしても 当たり判定のわずかな癖から処理速度の限界まで知り尽くした僕の優位が崩れることはないだろう。 (だが……相手がこの涼宮ハルヒとあっては話は別っ…) かつて僕は彼女が率いる素人集団SOS団に絶対の自信をもって挑み、敗れた。 今にして思えば、こちらが策に溺れ油断を生じたこと、相手方に超級ハッカー長門有希が 「偶然」属していたことも含めて、彼女はあの時勝利を引き寄せる何かを持っていたのだ。 (それでも僕は勝つ…倒さねば彼女、涼宮ハルヒが死ぬ) 「引き分けは勝負なしよ」 PCが立ち上がりゲームサーバーに接続するまでの僅かな時間。 彼女はディスプレイに目を落としたままさりげない風に言った。 「もし引き分けたら勝負なし…再戦もなし。アンタは生き…あたしは死ぬ」 「それが…唯一あたしに残された道なのよ」 「……いいだろう。引き分けたら、好きにしろ…勝手に死ぬがいいっ……!」 ハルヒvsコンピ研部長 最終戦 ・使用するのは両軍の旗艦隊のみ ・分艦隊ルールなし ・補給艦なし EN自動回復制 ・パラメータ固定 ショスタコービッチの交響曲第7番「レニングラード」。 壮重なクラシックを模したチープな電子音、僕のような人間にとっては子守唄より聞き慣れた調子とともに コンピ研連合軍旗艦『ディエス・イラエ』は二次元の海に姿を現した。 そしてこの深遠なる宇宙の闇の向こう、我が艦隊に付属する申し訳程度の索敵範囲の外に 倒すべき敵『ハルヒ☆閣下艦隊』がその威容を潜めているのだ。 ……実のところ、今回の勝負の肝は極めてシンプルだ。 僚艦も居なければ分艦隊もない、両者の戦闘能力も全く同じとあっては賢しらな戦略なぞ何の役にも立たないではないか。 リアルタイムシミュレーションではなくシューティングゲーム…… あるいは航空機同士の遭遇戦のようなものだ。闇の中を手探りで相手を求め合い、先に仕掛けた方が確実に勝つ。 団長さんは例の性格から言って画面の正面、僕のスタート地点に向けて迷わず直進してくるだろうな。 それならこちらは索敵艇を展開して動かず待ち構えていれば、彼女の艦隊が推進剤を消費している分有利に戦えることになる。 (……と、普通なら考えるだろうがね) あえて大迂回っ……! 彼我のスピードを頭に入れながらマップ端を進み、すれ違うであろう頃合いでスペースキーに手をかける。 命を賭けた戦い、まっとうにやって絶対確実な勝利など得られるものか…… The Day of SagittariusⅢ完成版 ディエス・イラエ艦隊に実装された全ENを消費して使用する特殊兵装……! (索敵モードOFF!!) 拓ける視界。効果はわずか数秒間だが、必要にして充分。 (読み通りぃ!あとはENが回復次第回頭即追撃っ…) 僕は見たのだ。この世を去ろうとする彼女自身の姿のように、背中を向けて疾走していく紅い艦列を。 かつてSOS団に我がコンピ研が敗れた原因を鑑みれば、つまるところ彼らには僕のイカサマを 看破しそれを逆手にとって挽回する時間的余裕があった。この一点に尽きる。 今回はイカサマのタネこそ前と同じだが、彼女がそれに気付ける時はすなわちこの僕が背後に忍び寄り致命の一撃を加えた時だ。 一対一の同条件下、奇襲を受けた側に逆転の目はない…… まして一度自分の目で確認した真後ろは索敵を行ううえでの心理的盲点 (今の彼女は死角に回られたことに気付かぬ剣客のようなもの 天才というべき相手を殺すのに二度目三度目はない 天才は初太刀で殺す これが鉄則……) EN回復っ…!刺す…無防備な背を… 「どこに隠れてる?何か企んでんのかしらね」 …どこまで直進する気だ。いつまでも最大戦速で進まれてはなかなか攻撃に移れ…? 「あらもうマップの端。前にいないってことは後ろね。……見っけ!」 ああ!? こともなげに船首を返したハルヒ艦隊の前に僕の鼻っ面が向けられている。 無為な追跡のためにENを浪費した状態の艦隊が… 「バカなっ…!?」「地獄の業火に焼かれなさいっ!」 放たれたビームの光状が僕の艦隊を灼く。おっとり刀で応射するが僅かに艦船の減りが早いのはこちらの方だ。 (突っ込むしかないっ……ビームではラチが開かぬ 魚雷を至近距離で当てれば逆転もあるっ……!) 砲撃を浴びながら肉薄する。相手が退いてくれればビームの撃ち合いでも押し返せるかっ…? 「なっ……」 紅い艦隊は退かず、逆に前進してきたのだ。両者が交錯し、刺し違えるように互いに魚雷を放つ。 暗転。画面に浮かぶドローの文字。 (止められなかった…僕は彼女の死を……) コンピ研部長 敗北に等しい引き分けを得る 「終わったわね?」「……ああ。まるで最初から君の掌で踊っていたようだよ」 僕の策を見抜いていたのか?それともただの偶然か?彼女が引き分けという結果を望んだからこうなった? 凡人の僕が運命に翻弄される木の葉なら、彼女の才気はまるで天上を進む星のようで… 「認めるよ。君に朽ちて死ぬなんて似合わない …消えろっ……高みのまま…」 人は自由に生き、自由に死んでいきたい…ただ、彼女はそれをやろうとしているだけなんだ… 恥じることはないっ…!死のう…時 満ちたなら……! 五人目コンピ研部長が去る 残りは三人… 「久しぶりだねっ!」 「久しぶり。今度のことはあなたにも面倒をかけてごめんなさい」 「気にすることないさっ。元SOS団名誉顧問としてこのくらいのことはさせてもらうよ。……早速だけど、行こうか?」 「行く……?」 「ハルにゃんが人が何を言おうと気にしない子でも、もう無理っ……オリられない… いくら生き延びたくなっても、もう自分からの撤回は不可能…でも大丈夫さっ」 「あたしがハルにゃんを……拉致するっ…!」 変則通夜 六人目っ…鶴屋さんっ…! 「……」 「とぼけることないさっ…!生きたくないはずがない… イツキ君のお仲間とは別口で、あたしん家のこわーいお兄さんたちを待機させてるさっ。 ここはあたしの屋敷、何が起ころうと誰にも文句は言わせない……」 「救ってあげるさ!あたしが……」 「鶴屋さん。あなたは優しい人だからこう思っている……アルツハイマー なんかになってしまってなんて涼宮ハルヒはかわいそうだ……と」 「そんなことっ……」 「なるほどこんな病気になったのはツイてない…最悪ね。でもそう一概に言えるもんでもないのよ。 あたしに言わせればむしろ鶴屋さん…あなたの方がかわいそうなのに」 「……!」 「……どうでした?ハルヒは…何と…?」 部長氏に続いてハルヒの下に向かった鶴屋さんが戻ってきた。 すでに面会を済ませた人々はあえて顔を上げようともしなかったが、俺は難しいと知りつつ聞かずにはいられない。 「いや~~駄目さっ。変えられなかった、考えは…」「そうですか…」 落胆を隠せない俺を見かねたか、自分に言い聞かせるためか鶴屋さんは確かな口調で続けた。 「ただ……突破口はあるかもしれないよっ。ただ死にたいだけなら懐かしい顔を集めようなんて考えるかい? この通夜はハルにゃんの生への希求が仕組んだ…最後のSOS……」 ちょいと二人で話せないかなっ、という鶴屋さんの誘いで俺たちは庭に面した廊下へ出た。 暗い中にも良く手入れされているのが分かる格式ある庭園だ。 「……??」 鶴屋さんは意味ありげに目配せすると、素足のまま庭へ降りてみせた。そんなことしたら高級そうな服が… 「何というか、縛られてるよねっ。あたしは今無理してやってるだけさ。 靴をはかずに庭へ降りる……こんなちっぽけな事ひとつ取っても、縛られてる…」 「これがハルにゃんなら何にも気にせず歩くだろうね。気が向いたら歩けばいい。何の不都合があるもんかい」 俺に背を向けたまま鶴屋さんは話し続ける。……なんて弱々しい背中なんだ。 あの頃いつも闊達で飄々としていた鶴屋先輩が。こんな立派な屋敷の主で 本当なら俺なんて声もかけられないような人が、今だけはひどく小さく見えた。 「何もかも持ってるみたいで、その実何も持っちゃいなかったのさっ。 あたしは成功をただ守るだけの番人……自由に生きることも、自由に死ぬこともできない」 (悲しい時に泣けず…笑いたい時に笑えず…棺よ。鶴屋さん、あなたは棺の中にいる) 「それでも、たとえ不自由な生であってもあたしには捨てたりなんてできない。不自由なりに自分の務めを果たしてきたことが誇りでもあるしね…ジレンマさっ。 自分が自分として生きられないから死ぬ…そんなハルにゃんの気持ちを受け入れきれない…だから救えない」 ああ、この人も俺と同じだったんだ。不自由な、実感なき生をそれと知りつつなお生きている。 「強いて言えばハルにゃんと同じ匂いのする……あの子しかいないかなっ」 先ほどまで居た部屋の戸が開き、漏れてきた光が俺と鶴屋さんを照らす。 ……佐々木。 変則通夜最終面談 キョン&佐々木 「…………」 ハルヒの生死を決めるこの変則通夜最後の回、俺は行き詰まった沈黙の中に居た。 「僕と彼女は元来キョンを通して知り合った仲だ。それなら君を交えて三人で話すのが筋じゃないかね」 との言に従ってはみたが、肝心の佐々木は離れに入って簡単に挨拶を済ませたきり 安楽椅子に腰掛けたハルヒの横顔を見つめて黙ってしまった。 当のハルヒは俺たちに構う風も見せずくつろいだ姿勢のままだ。 これだけ見ているととても死を前にした人間とは思えないが、肘掛けに置かれた腕に 取り付けられた点滴のような設備が否応なしに俺を現実に引き戻す。…自殺幇助装置。 俺が止めなきゃ、ハルヒが死んじまうっ……でも、どうすればっ…… 「……ぷっ、あはははは!キョン!あんた変な顔っ」「く……くく…くくっ、すまないね、ふふ」 唐突にハルヒが吹いた。つられて佐々木も笑い出す。 どうやら思索の沼に嵌まりこんだ俺の顔が二人の笑いのツボを刺激したらしい……っておい!これでもこちとら真剣なんだよ! 「ぷぷぷっ……まあいいわ。だいたいそんなに黙って悩むことないでしょ?動けば何かが変わるもの…… 変化の中でまた考えながら進んでいけばいいのよ。まどるっこしいったらありゃしないわ」 そうは言っても失敗したら死ぬのはお前なんだぞハルヒ。 あの頃はピンチになれば長門や未来の朝比奈さんが示唆を与えてくれたが、今の俺には何の指針もないんだ。 ……いや、これは言い訳だな。かつてハルヒの居ない、長門も古泉も朝比奈さんも普通の人間になっちまった世界へ 放り出されたとき、俺はなりふり構わず動いたじゃないか。元通りの仲間たちみんなに会うためによ。 今の俺はただ保留してるだけっ……くそっ! 「いい、キョン。失敗した時のことなんて考えなくていいの。 もっといい加減になればいい……真面目であることなんて悪癖よ。 それがあんたを止めてきたのね。この9年間」 ……分かるのか。ハルヒ達と別れてからの俺のこの停滞が。 だが、俺はお前みたく強くて何でもできる人間とは違うんだよ。 今だってお前が死んじまったらと思うと怖くて何も話せなくなっちまう。 「強い者も弱い者もないのよ。弱くても、才能があろうとなかろうと輝いてる人間はいっぱいいるでしょ? 要は勝負してるかどうかか……その結果人生そのものが失敗に終わったっていい。まるで構わない…あたしはそう思う」 「成功を求めるな、と言ってるわけじゃないの。成功か失敗か、そんな結果に 囚われて立ち止まってしまうこと、熱を失ってしまうこと。こっちの方が問題…」 繰り返すっ……失敗を恐れるな… 俺がハルヒの言葉に喉を詰まらせていると、佐々木がゆっくりと口を開いた。 「……涼宮さん。まず最初に、僕はキョンたちと違って君の生死そのものにさしたる関心は持っていないことを告白しなくてはならない。 見たところ君は鬱病でもノイローゼでもないようだ。ならば僕にはあえて君を止めるべき理由がない。 だがその前に聞いておきたい。我々が生きるということはつまるところ、 生きている理由、死ぬ理由をさぐり求める営みのようなものだと僕は考える。 そこで君はこうして死を受け入れるに至って、何らかの思想、教えのようなものを見い出したのかい?」 「『さぐり求めるということは、自分の求めるものだけを見、自分の求めるものだけを考え、 結局何も心に受け入れることができないということになりやすい。 これに反して見い出すとは自由であること、心を開いていること、世界をありのままに受け入れることである。 世界を愛することを学ぶためには、自分の希望し空想した何らかの世界や自分の考えたような性質の完全さと この世界を比較することはもはや止め、世界をあるがままにまかせ、世界を愛し、喜んで世界に帰属するためには、 自分は罪を大いに必要とし、歓楽を必要とし、財貨への努力や虚栄や、極度に恥ずかしい絶望を必要とした』 …まあ、こんなところかしらね。言葉で伝えるのは疲れるし、難しいけれど」 「世界をあるがままに受け入れると言ったね。ならば君がアルツハイマーになったということも 君の人生の一部として受け入れるべきではないのかな? それで初めて涼宮ハルヒの人生が完結するというもの……違うかい」 「もちろん人は放っておいても死ぬんだから、あたしも通常それに合わせる…… でもあたしはこれから数年間、半ば眠ったような意識で人の世話を受け、わけのわからないまま死ぬことになる。 幸いあたしは古泉くんやみんなの助けでこうして自分を保ったまま死ぬ道を見つけることができた。 だから死ぬ……結局、好き嫌いの話なのよ。命より自分が大事。充分よ。もう、充分……」 ハルヒが装置のスイッチに手を掛ける。やめろ、まだもう少しだけ……! 「まだだっ……!ハルヒ!何で諦めちまうんだよ!まだ話したいことだって沢山ある! 長門と朝比奈さんは居ないけど、まだあんなに仲間がいっぱい居るじゃねぇかっ……」 古泉の話ではハルヒの能力は随分前から発揮されなくなっているらしい。 だが、そいつを今目覚めさせることができれば…… 世界を受け入れる?お前のいなくなる世界なんてくそくらえだっ…! 「悔しくないのかっ…?無念じゃないのかよ!ハルヒっ……!?」 呼びかける俺をハルヒが顔を上げて見返す。……ハルヒは、泣いていた。 「無念……当たり前じゃない。死ぬのは悔しい…」 「でも、これが生きてる証なの。人生なんて上手くいかないこと、理不尽なことばかり… それでもそんな中で願いを持つこと、同時に今ある現実と合意すること…それを教えてくれたのはキョン、あんたとSOS団だったのよ」 「宇宙人、未来人、超能力者、異世界人……不思議なことは一つも見つけられなかったけど、代わりにあんたと二人で有希と、 みくるちゃんと、古泉くんを見つけた。不思議を見つける代わりにみんなと出会えた。それでよかった。きっと不思議そのものが見つかるより……」 「ハルヒ……」 薬液がチューブを通してハルヒの体内に送り込まれていく。 ハルヒの命の鼓動を止める薬が…… 「WAWAWA……うぉっ!?涼宮!涼宮ぁ!!」 俺が大声を出したから気付いたのか。谷口を先頭に仲間たちが一斉になだれ込んできた。 「みんな勘がいいのね……」 「涼宮さん!涼宮さん!」「涼宮っ…!」「ハルにゃん……」 ハルヒは、最後に笑ったように見えた。 あれからもう二年になる。 俺は会社を辞め、古泉と行動を共にするようになった。 ハルヒの死によって『機関』の仕事もなくなったように思っていたが、今後起こりうる世界を変えるような存在の出現や 未来、宇宙からの介入に備えるための組織として細々ながら存続していくらしい。 これが本当に俺の進むべき道だったのかはわからないが、ハルヒの言う通り人はいずれ死ぬのだ。 それなら少しでも自分の意に沿う方向で生きればいい。 ……思えばこの二年、何かにつけてハルヒのことを考えている気がするな。 ハルヒがまだ生きていた空白の9年間よりはるかに多く。 「それは涼宮さんがあなたの中で生き出したということでしょう。 彼女は常にあなたの心の中に在り、共に歩み、共に笑い、共に苦しんでくれる永遠の同伴者に」 ……よくわからないが、そういうことなのかもしれないな。 「ご存知ですか?」 古泉は少しだけ胡散臭さの抜けた笑顔で付け加えた。 「人はそういった存在を、神と呼んでいます」 「……佐々木か」 「やあキョン、君もこれから彼女のところかい。そういう事なら同道しようじゃないか」 「なあ佐々木。お前はもしハルヒと同じ立場になったらどうする?」 「……僕か。僕は生きるだろうね。どんな状態になっても、見苦しくても最期の一秒まで生きる……」 「ハルヒとは違って……か?」 「違う?」 「僕も彼女と同じなのさ。誰もがそれぞれ自分らしく生きて、自分らしく死ねばいい。何の違いがあるというんだい」 佐々木は笑った。その表情がハルヒの最期の笑顔と重なる。 「…ああ。ハルヒには向こうで少し寂しい思いをさせるかもしれないが、俺たちは生きようじゃないか」 涼宮ハルヒの通夜編 キャスト 赤木しげる 涼宮ハルヒ 金光修蔵 古泉一樹 健 阪中 鷲尾仁 谷口 浅井銀次 岡部先生(特別出演) 僧我三威 や【禁則事項】 原田克美 鶴屋さん 井川ひろゆき キョン 天貴史 佐々木(友情出演) スタッフ 超監督・主演 涼宮ハルヒ 助監督 古泉一樹 映像技術 長門有希 撮影 周防九曜 総合演出 喜緑江美里 大道具 橘京子 メイク・衣装 朝比奈みくる カメラの三脚を手で押さえる係 ポン☆ジー藤原 撮影協力 鶴屋邸 西宮市営霊園 原作 福本伸行『天 天和通りの快男児』竹書房
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1430.html
キョン「よ、おはよう」 ハルヒ「おはよ!相変わらず朝から気合の入ってない顔してるわねえ」 キョン「普通の朝はこれが標準なんだよ」 朝倉「あらキョン君、おはよう。今日も元気そうね」 キョン「あ、ああ。おはよう」 ハルヒ(フン!イヤなヤツがきたわ。外ヅラはかわいい顔してるけど、 腹の中じゃなに考えてるかわかったもんじゃないわね。この前 私の体操服が盗られたことだって、きっとコイツの仕業に違いないわ) 朝倉「あれ、涼宮さんどうしたの?急に静かになっちゃって。気分でも悪いの?」 ハルヒ(ええそうよ。あんたのせいでね!) キョン「朝倉、コイツの面倒はオレが見るから大丈夫だ」 そういうと朝倉は目をうっすら細くして答えた。 朝倉「あらそう?じゃ、キョン君にお願いするわ」 そういうと朝倉は女子の輪の中へ戻っていった。 キョン「おいハルヒ、朝倉のことがあんまり好きじゃないのは見ててわかるんだが、 せめて朝のあいさつぐらいしたらどうだ?一応委員長だしな」 ハルヒ「関係ないわ。私はね、アイツみたいに狸の皮をかぶって本性を隠してるようなヤツが 大嫌いなのよ!有希が言ってたけど、中学時代のアイツは今から想像できないくらい 荒れてたらしいわよ。アイツ高校に入ってからずっと猫かぶりっぱなしよ」 キョン「その話が本当だとしてもだ。あいさつぐらいは別にかまわんじゃないか。 それにお前は本性を現しすぎなんだよ。もうちょっとおしとやかにしてみろ。 きっと朝倉くらい人気が出ると思うぞ」 ハルヒ「フン!アホくさい。それに前言ったでしょ!アイツ私の体操服を」 キョン「しっ!・・その話は言わないっていったろ。朝倉がやったっていう確証がないんだ。 それに今お前が朝倉とおおっぴらに対立したら、ますますクラスで孤立することになるんだぞ?」 キョンは大きくため息をついた。 キョン(なんだってコイツは社交性が皆無なんだ?) 2時間目は体育だった。女子は体育館でバスケットボール、 男子はグラウンドでトラック競技である。 キョン(ハルヒのヤツ、朝倉とケンカしなきゃいいんだが・・・) 谷口「ようキョン、どうした?恋煩いか?」 キョン「ドアホ、・・・なんでもねえよ」 谷口「ははあ・・・お前、もしかして涼宮のこと考えてたな」 キョン(ドキッ) 谷口「お前は考えてることがすぐ顔に出るからな・・・ 今朝の涼宮と朝倉、一触即発だったじゃねえか」 キョン「な、なんでそんなことお前に・・」 谷口「バーカ、よく見てりゃそんぐらいわかるんだよ。涼宮が朝倉をにらむ目は ハンパじゃねえからな」 キョン(・・・・・・) 谷口「でも朝倉と対立するのはよくねえな・・・アイツは1年のアイドルとして 名前が知られちゃいるが、本性はなかなか黒い性格してるってウワサだからな」 キョン「それ、本当か?」 谷口「ああ。朝倉と同じ中学出身のヤツに聞いたんだが、中3のときアイツと ケンカした女子がいたらしいんだ。理由まではわからんがな。 そしたら次の日から、おそらく朝倉の命令だろうな。その女子が徹底的に 無視され始めたんだとさ。かわいそうに、その子は一週間あまりで 登校拒否になったらしい」 キョン「・・・マジかよ」 谷口「さあな。オレが真相を確かめたわけじゃないから断言はできんが、 ともかく朝倉だけは敵に回さないほうがよさそうだぜ。涼宮には お前からよく言って聞かせとけよ」 キョン「・・・一応、忠告として受け取っておくよ」 一方そのころ、体育館では・・・ 現在、ハルヒ率いる赤チームと朝倉率いる青チームの試合が行われていた。 別に二人がキャプテンをつとめているわけではないが、飛びぬけて 運動能力の高い両者は試合全般にかけて活躍し通しであった。 瀬能「涼宮さんて運動神経抜群ねえ」 阪中「そうよね。ちょっと憧れちゃうのよね」 瀬能「それに、朝倉さんもすごいよね。さっきから5回連続でシュート決めてるわ」 阪中「あの二人、あんなにすごいのに運動部入ってないのよね」 朝倉(涼宮さん、さっきから少し目障りね・・・) 朝倉はすっと目を細めてハルヒを見た。それからチームメイトに耳打ちをはじめた。 現在、オフェンスはハルヒチームである。ハルヒは華麗なドリブルで 敵ディフェンスの輪をかいくぐり、ゴール近くまで進んでいた。 ボールを奪いにきたディフェンスの一人がハルヒにすかされて 大きくバランスを崩し、派手に転んだときであった。 転んだと同時に朝倉はハルヒに体当たりをかけた。 ハルヒは大きく飛ばされ、床に倒れた。 ハルヒ「いったぁ・・・」 見るとハルヒはわき腹を痛めたのか、手を当てたまま動かなかった。 朝倉「涼宮さんッ!大丈夫!」 朝倉は大げさに声を上げると、ハルヒにかけよった。 朝倉「ごめんなさいね。ちょっと力が入りすぎてしまったの。さ、手を貸すわ」 ハルヒは一瞬朝倉を睨んだが、すぐに目をそらした。 ハルヒ「・・・いいわ。自分で立てるから」 朝倉「あらそう、それなら安心したわ」 そう言いながら、再び朝倉は目を細めた。 朝倉のタックルは、直前にころんだ女子のせいで審判の目が行き届かなかったらしく、 不問とされたようだった。 その後試合は、ハルヒがわき腹を痛めたせいで思ったように攻撃ができず、 防戦一方となった。 結果的には、朝倉チームにかなりの得点差をつけられた末、ハルヒチームは敗れた。 朝倉「まったく、うまいことやってくれたわね」 鈴木「アンタのタックルもかなりえげつなかったわよ?涼宮のヤツ、 かなり痛そうにしてたわね。骨にヒビでも入ったんじゃない?」 朝倉「そのときはね、お見舞いにでも行ってあげたらいいのよ」 女子A「キャハハハ!涼宮かわいそー!」 2限終了後、朝倉たちは水のみ場で、えらくわかりやすい悪事の解説を行っていた。 長門「・・・・・そこ、使っていい?」 朝倉「あら?長門さんじゃない。こんなところに何の用?」 長門「次の時間は書道。水を汲みにきた」 朝倉「ふーん・・・あ、そうそう。あなたのサークルの団長さんね、さっきの体育の時間に ケガしちゃったみたいなの。私が心配してたって後で伝えといてちょうだい」 長門「・・・そう」 水を汲み終わった長門はすぐに教室に帰っていった。 朝倉「あいかわらず愛想のない子ねえ・・・」 鈴木「なに?あの陰気なヤツ」 朝倉「私の幼馴染よ。無表情な子だから何考えてるのかよくわからないの」 女子A「涼子、あんなのとつるんでたの?」 朝倉「ま、腐れ縁てヤツね。住んでる場所も同じマンションだし」 鈴木「・・・ふーん。アンタとは全然性格あわなさそうね」 キョン(次は数学か・・・ま、授業を聞くだけ無駄だな。それにしても、 体育が終わってからのハルヒはいつに増して不機嫌そうな顔してるな。 まさか朝倉とケンカしたんじゃ・・・) キョン「おいハルヒどうしたんだ?浮かない顔して、具合でも悪いのか?」 ハルヒ「なんでもないわ。ちょっとわき腹を痛めただけよ」 キョン「運動神経のいいお前がケガしたのか。めずらしいこともあるもんだ。 保健室には行ったのか?」 ハルヒ「たいしたことないわ。ほっときゃすぐに治るわよ」 その後ハルヒは、昼休みまでずっと不機嫌オーラを放ち続けていた。 昼休みになると、すぐに教室を出て行った。 谷口「おいキョン、どうやら2限の体育でひと悶着あったらしいぞ」 キョン「まさか、ハルヒと朝倉がケンカしたのか?そういやアイツ 体育が終わってからずっと不機嫌だったしな」 谷口「いや、ケンカってワケじゃないみたいだが、朝倉と涼宮が接触プレーしたらしいんだ」 キョン(それでアイツ、わき腹を痛めたって言ってたのか) 谷口「その接触プレーだがな。ただのハプニングじゃないらしいぞ」 キョン「どういうことだ?」 谷口「真相は不明だが、その接触プレーは朝倉が仕組んだってウワサが流れてるんだ」 キョン「おい、そりゃ本当か!」 谷口「だからウワサだって。しかし涼宮にとっちゃ、あまり状況はよくないみたいだな」 キョン(たしかに今のままでは、近いうちに大きな衝突が起きることは 火を見るより明らかだ。それにウワサが本当だとすれば、ハルヒに非はない。 一体どうすれば・・・) 谷口「ま、お前もそろそろ真剣に考えたほうがいいぞ。手遅れにならないうちにな」 なぜかこのクラスでは、オレはハルヒのお目付け役というポジションに付けられているようだ。 それというのも、オレたちが高校に入学して間もないころに、 オレはハルヒがでっちあげたSOS団などというオカルトサークルに 強制的に加入されられたからだ。 それ以来、オレは社交性0のハルヒとクラスとのパイプ役を勤めているってわけだ。 弁当を食い終わるとオレは文芸部部室に向かった。 ……表向きは文芸部であるが、その実体はハルヒが作ったSOS団などという わけのわからないサークルの巣窟となっている。 オレは部室のドアを開けると、中にいた少女に声をかけた。 キョン「よ、長門。いつもご苦労なこったな」 長門は奥の机でハードカバーの本を読んでいた。彼女はただ一人の文芸部員であったが、 ハルヒに目を付けられたのが運のつきであった。それ以来ハルヒがこの部室に居座るようになり、 文芸部は今や有名無実化していた。・・・まあ、長門にしてみればハルヒがいてもいなくても 読書できることに変わりはないのであろう。 キョン「ちょっと聞きたいことがあるんだ」 そういうと長門は本を閉じ、オレに視線を移した。 長門「なに?」 キョン「朝倉涼子・・・って知ってるだろ」 長門「私の幼馴染」 キョン「その朝倉について、詳しく教えてもらいたいんだ」 長門「なぜ?」 そういいながら長門はまっすぐにオレの目を見つめてくる。・・・うーん、なんだか居心地が悪いな。 キョン「その、うまく言えないんだが、ハルヒのヤツが朝倉と仲悪くてな。 どうにかして仲良くしてもらいたいと思ってるんだ」 長門「朝倉涼子と涼宮ハルヒの性格は水と油。仲良くするのは困難であるように思う」 それぐらいはオレにもわかるんだが。 キョン「うーん、そこをなんとかだな・・・そうそう、朝倉ってどんな性格してるんだ?」 長門「彼女の性格は表面に現れているものがすべてではない。常に本音を隠しながら 人と接している」 キョン「てことはだな。表面上は仲良く接しているように見えても、 実はソイツのことを嫌っているってこともあったりするのか?」 長門「今までの経験上、そういうことは多い」 やっぱりそうか・・・本性が黒いってウワサももしかしたら本当かもしれんな。 キョン「なんでそこまでわかるんだ?アイツはお前にだけは本音を話しているのか?」 長門「彼女は表面的には誰に対しても同じ接し方をする。・・・でも、私にはなんとなくわかる」 幼馴染だけに性格の深いとこまで理解してるってことか。 キョン「そうか・・・ありがとな、長門」 長門「気をつけて」 キョン「ん、なにがだ?」 長門「彼女は敵意を抱いた相手に、決して直接に敵意を見せるようなことはしない」 …なるほどな。こりゃハルヒでも手に負えないかもしれん。 結局その日はハルヒの機嫌が直ることはなかった。 次の日、ハルヒのことが心配だったオレは少し早めに学校に着いた。 朝倉「あら、キョン君おはよう」 キョン「あ、ああ。おはよう」 教室に入ると、なぜか朝倉がハルヒの机の上に腰かけていた。 キョン「なんでお前がハルヒの席にいるんだ?」 朝倉「あら、ちょっとぐらい貸してもらってもいいんじゃない?まだ涼宮さんきてないみたいだしね。 それより少しお話しない?」 キョン「それは別にかまわんが・・・」 オレは戸惑いつつも朝倉をの会話を楽しんでいた。しかし、やがてハルヒが 教室に来る時間となった。 ハルヒは自分の席に朝倉がいるのを一瞥すると、さっさと教室から出て行ってしまった。 朝倉「あれ、涼宮さんあわててどこ行ったのかな?トイレかな?」 キョン「・・・朝倉、お前に聞きたいことがある」 朝倉「なあに?」 彼女は目を細めて聞き返した。 キョン「お前、昨日の体育の時間にハルヒにケガさせたんだよな?」 朝倉「涼宮さんには悪いことしちゃったわね。・・・昨日から心配だったの」 キョン「そのことだがな・・・お前がわざとやったんじゃないかってウワサを聞いた。 まさかとは思うが念のため聞いておきたい。それは本当のことか?」 朝倉「・・・ひどいこというのね。私がクラスメートをわざとケガさせるように見えるの?」 朝倉は大げさに、心外だという身振りをしながらそういった。 心底、疑われたことが悲しいという表情をみせながら。 キョン「ウワサが気になったんでな。直接確認したかったんだ。・・・疑って悪かった」 朝倉「疑いが晴れたならそれでいいわ」 彼女はオレに満面の笑みを見せると、自分の席に戻っていった。 しばらくしてハルヒが戻ってくると、ほぼ同時に担任が教室に入ってきてHRとなった。 そして、1時間目の間中ずっとオレはハルヒの不機嫌オーラを背中で受け続けていた。 ハルヒ「あんた、委員長萌えだったの?」 キョン「なんのことだ?」 休み時間になると、さっそくハルヒはオレに喰ってかかってきた。 ハルヒ「さっき朝倉とうれしそうに話してたじゃないの」 キョン「別にうれしそうじゃねえよ」 ハルヒ「鼻の下伸ばしてたクセに何言ってんのよ。おかげで私が遅刻するとこだったのよ」 キョン「朝倉なんて気にせず教室に入ってきたらよかったんだよ」 ハルヒ「アイツの顔なんて見たくもないわ!」 キョン「お、おい、あんまりでかい声だすな。聞こえるだろ」 ハルヒ「知ったこっちゃないわよ!」 そういうとハルヒは、女子グループの輪の中心で微笑んでいる朝倉を睨んだ。 視線に気づいたのか、朝倉はハルヒのほうをチラっと見て、それからこのオレに 微笑みかけてきた。 ハルヒ「・・・ふーん、朝倉もまんざらじゃないみたいね。よかったじゃない!」 キョン「お前、なに勘違いしてるんだ?」 ハルヒ「フン!」 ハルヒは窓の外に目をやると、それ以上は口をきかなかった。 その後もダウナーなオーラを無差別に拡散するハルヒに耐えながら、なんとか午前の授業が終了した。 国木田「涼宮さん、今日も機嫌悪そうだったね。やっぱりウワサ本当だったのかな?」 キョン「さあな」 谷口「あの様子だとそろそろ全面戦争も近いぜ。・・・ところでお前、今朝朝倉と 仲良く話してなかったか?」 キョン「しらねーよ。向こうから話しかけてきただけだ」 谷口「涼宮を裏切ろうってのか?ま、お前がどっちにつこうが知ったこっちゃないが、 お前に見捨てられたら涼宮はこのクラスで孤立するってことは忘れるなよ」 キョン「人の話を聞かないヤツだな・・・そもそもハルヒが孤立してんのは、 アイツが自ら招いた事態じゃねえか」 谷口「あれでも中学のころに比べたらだいぶマシになってるんだぜ?・・・たしかに 朝倉がかわいいのは認めるが、安易な乗り換えはオレをはじめとする男子軍団が 黙っちゃいないぞ」 国木田「そうそう。キョンには涼宮さんがお似合いってことだよ」 勝手なことばかり言いやがって。涼宮にせよ朝倉にせよ、オレに選択権はないのか。 ……っと、こんなことコイツらに聞かれようもんなら公開処刑されかねんな。 教室で弁当を食い終わると、オレはまた部室へと向かった。 キョン「よ、長門・・・はいないみたいだな」 めずらしく今日は長門が来ていなかった。 やれやれ、ハルヒと朝倉のことを相談しようと思ったんだが。 オレはイスを引いて腰かけた。 しばらくすると部室をノックする音が聞こえた。 キョン「どうぞ、空いてますよ」 朝倉「ちょっとお邪魔するわね」 なんと、入ってきたのは朝倉だった。 キョン「こんなところまで何の用だ?・・・教室じゃ言えないようなことか?」 朝倉「あら、つれないこというのね。わざわざあなたに会いにきた女の子に対して」 朝倉は笑顔を崩さずに話を続けた。 朝倉「アナタ、長門さんに私のことを聞いたみたいね」 キョン「・・・長門がそう言ってたのか?」 朝倉「あの子はそんなおしゃべりじゃないわ。ただ昨日からのあなたを見てて そう思っただけ。影でこそこそされるのはあまり好きじゃないの」 えらくストレートにきたな。一瞬あっけにとられてしまった。 キョン「それは悪かった。じゃ、オレもストレートに言わせてもらうよ。 ・・・あまりハルヒを刺激しないでほしい」 朝倉「それこそ心外ね。私は涼宮さんと仲良くしたいと思ってるわ。 あの子、クラスで孤立気味だから・・・あなただけには心を開いてるようだけど?」 不意にそう言われて顔が赤くなってしまった。・・・コイツはなかなかの強敵だな。 オレの表情を見た朝倉は、満面の笑みで話を続けた。 今度はオレが朝倉を見つめる番だった。 朝倉「なあにキョン君?・・・そうね、もしかしたら私も彼女の気に障ることを してたのかもしれないわ。今後は気をつけるってことで、ここは納得してくれない?」 キョン「・・・わかった。くれぐれも頼む」 朝倉「あなたにここまで心配してもらえるなんて、なんだか涼宮さんがうらやましいわ。 じゃ、そろそろ私はこの辺で。あなたたちもほどほどに教室に戻るのよ?」 そういうと朝倉は教室へ帰っていった。 彼女が帰ったあと、オレは再びイスに座りなおして大きくため息をついた。 キョン「なあ長門、今の朝倉の言葉、どう思う?」 長門「なんで私に聞くの?」 キョン「いや、お前ならアイツが本心から言ったかどうかわかるかな、と思ってさ」 長門「あなたはわからないの?」 たしかに、アイツと付き合いの浅いオレでも今のセリフは本心から言ってないってことは なんとなくわかる。 しかし、今日の長門は妙に冷たい気がするな・・・ 長門「私はどちらの肩も持たない。だからあなたの味方はできない」 長門の言葉を聞いてオレは驚いた。長門がはっきりとした意思表示をするなんて、 かなりめずらしいことだからである。 ・・・まあ、考えてみればかたや幼馴染、かたやSOS団団長の揉め事だ。 どちらか片側につきたくない気持ちは察せられる。 キョン「すまなかったな長門。ま、相談ぐらいには乗ってくれよ」 そういうと長門は黙ってうなずいた。 2話
https://w.atwiki.jp/janryumon_sure/pages/41.html
【最近のニコ生放送事情】 ◆トンプル 丁寧でわかりやすい解説で人気。それ故雑魚リスナーの溜まり場となっている。スレのコテでもある。 http //com.nicovideo.jp/community/co30170 ◆夜のダジャレ 保存九段。宗教上の理由で友人卓でしか打たない。 http //com.nicovideo.jp/community/co1421016 ◆おちゃーん 友人卓でチラされるために雀龍門放送してる生主。 http //com.nicovideo.jp/community/co396477 ◆墨田川 一人漫才をしながら雀龍門をプレイ。 http //com.nicovideo.jp/community/co580304 ◆かじやん 麻雀プロであり生主でもある。 http //com.nicovideo.jp/community/co532271
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1618.html
影時間。 いつからそれが訪れるようになったのか――っていうか、ついこの間からなんだがな。 まったく訳の分からんことには慣れきったと思っていたが、まさかこんなアホな事態になるとはな。 いま俺はハルヒ以外のSOS団メンバーと共に、シャドウ退治ってのをやってるところだ。 シャドウってのは影時間にだけ現れるキモイ化け物のことで――って、影時間が何なのかの説明もまだか。 仕方ない、俺がこの事件に巻き込まれたところから話すとしよう。 あれは1週間くらい前のことだったかな、俺は夜中にのどが渇いて、しかし冷蔵庫には何もなく、 水で我慢するのも癪だったので、缶ジュースを買いに外に出かけたんだ。 そうしたら―― 「……?」 家を出て、近くの自販機に向かおうとあくびをしながら一歩踏み出したところで、 俺は自分の目を疑ったね。 なにしろ自販機の隣に棺桶が立ってたんだから。 なんだこりゃ。新手のヤンキーのいたずらか? 少しビビリつつも、俺はその棺桶に近づいていった。 でかい。あたりまえか、人を入れるためのもんだもんな。俺より頭ふたつぶんくらいはでかいね。 中に誰か入ってるんだろうか。 吸血鬼……なんてのは、いくらなんでも時代錯誤だろう。 しかしもしこれがハルヒがらみだったら、あながち無いともいいきれないのが怖いところだ。 さすがに中身を覗いてみようって気にはならんが。 夜の街にぽつんと立っている棺桶か。不気味なことこのうえないな。 とにかくジュースを買おう。そして何も見なかったふりをして、家に戻ればいい。 明日長門あたりに聞けば、万事解決するだろうさ。 我ながら達観してるな。それもこれも、涼宮ハルヒなんてアホにつきあってるからなんだろうが。 俺は百円を自販機に入れて――うんともすんともいわねぇ。 なんだ。飲まれたのか? つり銭レバーをまわしても戻ってきやしねぇ。ウソだろ、俺の百円。 自販機を蹴り飛ばそうかどうか一瞬迷い、結局蹴り飛ばしてしまったところで、 「きゃあ!」 悲鳴が聞こえた。女の子のだ。まさか俺が自販機を蹴ったから、なわけはないだろうが、 しかしこの声には聞き覚えがある。そう、いつも部室で耳にしている可憐な悲鳴、これは、 「朝比奈さん!」 俺は悲鳴のほうに走ったね。迷うわけ無いだろう。朝比奈さんの危機に駆けつけないヤツは男じゃない。 通りの角を曲がり、こっちは長門のマンションの方だっけか、なんて思ったところで、俺は朝比奈さんを見つけた。 街路樹を背に立つ小柄な美少女、我らが朝比奈さん。 だがなんだ、あの化け物は。朝比奈さんの前方10メートルに立ってる、腕が4本生えた黒い塊みたいなのは。 「き、キョンくん!?」 朝比奈さんが俺の方を見て目を丸くした。まるでいるはずのない人がいたって感じだな。それはこっちも似たようなもんか。 「シャアア!」 朝比奈さんが俺に気を取られた瞬間を好機と捉えたか、怪物が四本の手で這うように走り出した。 早い、このままじゃ朝比奈さんが、と思う間もあらば、 「ぺっ、ぺるそな~っ!」 朝比奈さんが銃を――本物かあれ?――自分の眉間に当てて、引き金を引いた。 ぱぁん、と銃声がして、一瞬俺は朝比奈さんが本当に自分の頭を撃ったのだと思った。 だって頭の後ろから何かが吹き出したんだから。脳漿をぶちまけたと思ったのは当然だろう。 だがそれは青い色で、液体とか固体ってよりは気体って感じで、しかもそいつはもやもやとした塊から、 あっというまにはっきりとしたカタチに変化しやがって、この間1秒もかかってなかっただろうよ。 とにかく朝比奈さんから飛び出したそいつは、一匹のゾウに変化した。 ゾウといっても普通の四足のアレじゃない、人間みたいに二足歩行しているゾウだ。 しかも生意気に手には剣なんかもってる。ただリアルさは皆無で、ぬいぐるみみたいな外見なのが朝比奈さんらしいというか。 「い、いってくださいガネーシャさんっ!」 「ぱおーん」 ゾウが剣を振り下ろし、その一撃で黒い化け物は真っ二つ、どろどろに溶けて消えてしまった。 ……おいおい。なんだこりゃ。 俺に内緒で、また何かアホな映画の撮影でもしてるのかね? あたりを伺ってみるが、カメラをもったハルヒが隠れている様子も無い。 いったいどういうことだ―― 「朝比奈さん!」 きょろきょろしていたせいで気づいた。化け物が街路樹の上に隠れている。 そいつはさっきの化け物を倒してほっとしている朝比奈さんを狙って、飛び降りた。 「え――?」 間に合うか――俺は走った。 果たして怪物の手が朝比奈さんの小さな身体を潰すより早く、俺は彼女を突き飛ばし、さらに押し倒していた。 「き、キョンくん!?」 うお、柔らかっ。胸に手があたってる! 目の前には朝比奈さんのつぶらな瞳が……って、言ってる場合か。 「シャアアアア!」 狙いをはずした怪物が、忌々しげに俺を睨んでる――といいたいが、なんだあの顔は。まるでお面だな。 ハニワみたいな空ろな顔がマヌケだが、かえってそのマヌケ面が不気味かもしれない。 「き、キョンくん逃げて!」 逃げてって、朝比奈さんを置いて逃げられるわけないじゃないですか。 「あ、あたしは大丈夫だから――」 「シャアアア!」 怪物が俺たちに向かって飛び掛ってきた。やばい! 俺はとっさに朝比奈さんを庇おうとしたが、逆に前に出た朝比奈さんに庇われて―― 「きゃああ!」 怪物の腕が朝比奈さんを吹っ飛ばした。からんからん、と銃がアスファルトを滑って俺の脚に当たる。 「朝比奈さんっ!」 駆け寄ろうとした俺の前に怪物が立ちふさがる。このまま前に進めば俺が犠牲に、 かといって逃げれば朝比奈さんが殺される! 「く……」 足元に目を落とす。銃。すばやく拾い上げて怪物に向ける。怪物は一瞬怯んだように見えたが、 飛び跳ねるように俺に向かって来た―― 「キョンくん、自分を撃って!」 朝比奈さん!? 確かにさっき、朝比奈さんは自分に向かって銃を撃っていたが―― ええい、朝比奈さんを疑ってどうする。これでもし自分の頭を吹っ飛ばす結果になったら、それまでってことだろ。 俺は銃口を自分のこめかみに押し当てて、ごくり、つばを飲み込む、しゃれにならないぜこれは、し、死ぬのか? 「――ぺ、る、そ、な」 なんで俺はそんなことを呟いちまったんだろうね。わからん。わからんが、不思議な感じだった。 自分の中から、何かが弾け出すような感覚だ。一種のトランス状態と言ってもいい。ともかく、俺は、 引き金を引いた。 ぱぁん―― 乾いた音と共に、俺の中から何かが飛び出した。 それは――なんだろうねこいつは。 黒い雪だるまとしかいいようがない。 ジャアクフロスト? なんでかしらんが、そんなアホな名前が頭に浮かんだ。 まあなんでもいい、あの化け物を倒せ―― 思うが早いか、ジャアクフロストは口から炎を吐き出し、黒い怪物を一瞬で消し炭にしてしまった。 強いじゃねえか。だが雪だるまが火を噴くってのはどうなんだ。 とにかく俺は朝比奈さんの方へ走った。 「大丈夫ですか?」 「あ、あたしは大丈夫です。キョンくんこそ……」 「おかげさまで無傷ですよ。それより、一体なんなんですこれは? またハルヒのお遊びですか?」 「それは……」 朝比奈さんが口ごもる。まさかここまで来て禁則事項はないだろうが、話し辛いのだろうか。 「あの、長門さんの部屋まで来てください。そこで……」 長門? やっぱりあいつも噛んでるのか。 ああ、なんとなく見えてきたぜ。どうせそこには古泉もいて、いつもみたいに迂遠な解説をしてくれるんだろう。 俺は擦り傷ですんだらしい朝比奈さんを念の為におぶって、長門のマンションを目指した。 長門の部屋には案の定古泉がいて、さらに見覚えのある上級生……喜緑さんまで揃っていた。 「すみません朝比奈さん。救援に向かおうと思ったのですが、長門さんが不要だと」 古泉がニヤケ面でそんなことを言った。 「どういうことだ?」 「あなたが覚醒するのは分かっていた。状況は喜緑江美里が監視していた。問題は無い」 「監視? 覚醒? すまん、最初から説明してくれるか?」 「いいでしょう。まず……棺桶は見ましたか?」 ああ、自販機の隣にあったな。 「あれは象徴化した人間です――」 古泉の胡散臭い、もって回ったいつもの説明を出来るだけ簡潔にすませると、つまりこういうことらしい。 先月あたりから、深夜0時になると影時間とかいうのが始まるようになった。 影時間の間は普通の人間は棺桶になってしまう。 影時間の間は全ての機械が停止する。 棺桶になっている人間はぶっちゃけ時間が止まる。その間のことは感知しないし記憶されない。 ある程度影時間が過ぎると、元の時間に戻る。棺桶も人間に戻る。 影時間の間、シャドウという化け物が現れる。 たまに影時間に棺桶にならない人間がいて、そいつがシャドウに襲われると廃人になる。 棺桶にならない人間の中にはペルソナ使いの才能があるものがいる。 ペルソナ使いは自分の心を実体化させて攻撃できる。 シャドウを倒せるのはペルソナ使いだけ。 「わけがわからん」 とにかく今は影時間で、人を襲う化け物がいて、長門たちはペルソナを使って戦ってるってことか。 「まあ、かいつまめばそういうことです」 「それはわかった。しかし……こうも見事に知り合いだらけだとな」 やっぱりハルヒの仕業なんだろうな、これは。 「そういやハルヒの姿が無いようだが」 「彼女はいま眠っています」 喜緑さんが偵察用らしい丸っこい乙女型のペルソナを使い、ハルヒの寝室を空中に映し出した。 ……へそ出して寝てやがる。人の苦労も知らんで、気楽なもんだな。 「これが涼宮さんの望みかどうかは分かりませんが、少なくとも彼女は棺桶にはなっていない」 おい古泉、ハルヒのへそなんか見ても楽しくないだろう。こっちを見て話せ。 「失礼」 なに微笑ましいものを見るような目つきをしてやがる。俺が何か言ったか? 「しかしどうするんだ? 毎晩こんな化け物退治を続ける気か?」 「勝利条件は分かっています。次の満月に出現するボスを倒せば影時間は消えます」 「なぜ分かる」 「分かるのですから仕方在りません。これは僕だけでなく、長門さんや朝比奈さんも同意しています」 長門と朝比奈さんが頷いている。どうやら本当らしいが、まったく、なんのゲームだこれは。 「どうでしょう。戦力は大いに越したことはありません。あなたにも是非、我々と共に戦って欲しいのですが」 どうしてこう、訳の分からん事態に巻き込まれるのかね俺は。 いや、んなことはハルヒの事をこいつらから聞いた時にわかっていたはずじゃないか。 これからどんどんバカな話になりますよ、ってな。 それが嫌だったら、とっくにSOS団なんてやめてりゃよかったのさ。 だってのにいまだにずるずると続けてるのは、なんでなんだろうね。 一つだけいえることは、俺には選択権なぞとっくになくなってるってことさ。 「やれやれ」 そんなわけで、俺と長門、朝比奈さん、古泉の四人パーティで連日シャドウ狩りをやってるってわけだ。 シャドウに襲われた人間は廃人になるっていうが、実際に襲われてるヤツを見たことが無い。 どうやらこれも設定だけのようで、ま、ハルヒがそんなアホなことを望むわけもなし、その辺は心配はしてないんだがな。 だが俺たちはハルヒの本気ってのも分かってる。SOS団に手抜きは許されない。 俺たちが本気で戦ってやらなきゃ、恐らくハルヒも満足はしないだろう。 なので、俺は割りと一生懸命化け物退治にせいをだしていた。 おかげで毎日眠くてしょうがない。 他の連中には影時間なんてものは存在しないも同然だろうが、 俺たちは真夜中に数時間にわたって街中を疾走しなきゃならんわけで、 疲れるなというほうが無理がある。 「キョンってば眠そう。まさか夜遊びでもしてるんじゃないでしょうね」 「んなわけあるかい」 ハルヒめ、自分はぐーすか寝てるだけだからって勝手なことを言いやがって。 「ふーん。ならいいけどさ。勉強? 試験も近いしね」 ぐっ……忘れてた。もうすぐ試験じゃねーか。ぜんぜんやってねぇぞ、勉強なんて。 宇宙人組は余裕だろうが、朝比奈さんは大丈夫なんだろうか。古泉の心配はする必要もないだろうが。 「言っておくけど、SOS団の活動にそんなフラフラの状態で来たら張り倒すからね」 無茶言うな。いまから治せってか? 授業全て居眠りでこなせば、不可能じゃないだろうがな。 「なので、しばらくSOS団は休止。有希もみくるちゃんも古泉くんも辛そうだしさ」 ……まあ、ハルヒがいいなら別に構わんけどな。 「多少なりとも自覚があるのかもしれませんね」 ハルヒからSOS団休止宣言を聞いた古泉が、そんな分析をくれた。 「あのハルヒがそんなタマかよ。気まぐれだろ」 「そうかもしれませんね」 だから微笑ましい顔で見るな。気持ち悪い。 ともかくSOS団の活動が無いだけでも体力の消耗は抑えられる。 満月は明日だ、万全の調子で挑みたい。 「安心してください。満月前は疲労にはなりません。ここでレベル上げをしましょう」 なんだ疲労とかレベル上げってのは。そんな概念があったことに驚きだ。俺は何レベルなんだ。 「現在あなたのレベルは42。朝比奈みくるが44、古泉一樹が51。わたしは92」 一人だけ高っ!? 長門、何時の間にお前。 「メサイアが使える。さっきベルベッドルームに行って作ってきた」 もう何が何だか。 というわけで満月がやってきた。ボスとかいうのが出てくるはずだが―― 「まだ反応ありません」 喜緑さんはペルソナの力で街中にレーダー網を敷いている。シャドウの反応があれば即分かるはずだ。 俺たちはボスの出現に素早く対応できるよう、長門の部屋に集まって待機していた。 「いったいボスってのはどんなやつなんだ」 「分かりません」 想像してみる。今まで戦ってきたシャドウはみんな化け物じみていた。 とすると、ボスっていうくらいなんだから、とんでもない巨大な怪物とかだろうか。 「シャドウ反応――」 喜緑さんが微笑にやや緊張の色を浮かべて呟いた。 「ボスと思われる巨大なシャドウが出現しました」 「どこだ?」 「学校です――周囲にも多数のシャドウ反応。脅威度は低~中クラスですが、物凄い数です」 取り巻き付きかよ。まずいな。ボスにたどり着く前に消耗するのは避けたいところだが―― ハルヒは許しちゃくれないだろうな。しょうがねぇ、行くか。 「正面突破。だろ? ハルヒ」 学校の周りは凄まじい様相を呈していた。 とにかくザコシャドウの群れ、群れ、群れってやつだ。真っ黒い海にしか見えないね。 一つ一つを潰していたんじゃキリがない。 広範囲に影響を及ぼす魔法で片っ端から蹴散らして進むが、それでも気を抜くと押しつぶされそうになる。 「メギドラオン」 長門の魔法がシャドウの群れ300匹くらいを一気に吹き飛ばして、道を作る。 だがその道も少し進んだところで、他のシャドウに覆われてしまう。 そうやって少しずつ進んで、ようやく校舎の入り口に取り付いたところで、 「校舎の中はそれほど多くない」 喜緑さんからテレパシー通信を受け取った長門がそういった。 「外からの進入を防ぐ役が必要」 長門が玄関に仁王立ちになり、校舎に向かって進軍してくる津波のようなシャドウの群れを見据える。 「お、おい長門、そいつは……」 なんか死にキャラっぽい台詞だぞ。長門に限ってそんなことはないのだろうが。 「安心して」 長門が振り返らずに、 「わたしは死なない」 まあ――分かってるさ。死にはしない。絶対に。 だから長門、しんがりはまかせた。 ありがたくいかせてもらうぜ! 長門がほんのわずか頷いたことを確認し、俺と朝比奈さん、古泉は校舎の奥に向かった。 俺の愚者、朝比奈さんの星、古泉の魔術師のペルソナが、現れる敵を次々に吹き飛ばしていく。 「ボスの反応は部室棟の方から出ています。恐らく――文芸部」 喜緑さんのナビが頭の中に響く。 なるほどね、らしいじゃないか。 「ですが気をつけてください。その手前に強力なシャドウの反応が――」 言い終わる前に、そいつは目の前に現れていた。 巨大なダルマみたいなシャドウだ。かっこつけて剣なんかもってやがる。似合わないぜ、化け物め。 「キョンくん」 朝比奈さんが俺の前に出る。 「ここは僕たちに任せて、先に行ってください」 古泉まで。おいおい、なんだそれは。 「このシャドウには物理攻撃が通じません」 喜緑さんの分析に古泉が「だそうです」と頷く。 くそ。確かに俺のペルソナは物理攻撃主体だ。こいつ相手には役立たずもいいところだが。 「行ってください。すぐに追いつきます」 まったく、なんでこいつらはかっこつけなんだろうね。 これで俺一人でボスと対峙して、一方的にボコられてたらどうする気だろう。 とにかく古泉に言うことは一つだけだ。 朝比奈さんに傷一つつけてみろ、俺の怒りの鉄拳が飛ぶからな。 「努力しますよ」 古泉と朝比奈さんがペルソナを召喚し、激しい炎と風でシャドウを攻撃し始めた。 シャドウが二人がかりの魔法に身動きがとれずにいる隙を縫って、廊下の向こう側に駆け抜ける。 あの二人が負けるはずは無い。 俺は一路、ボスが待つであろうSOS団の部室に向かって走った。 部室棟の廊下にシャドウの姿は無かった。 どうやら俺が一人で来ることを見透かされていたというか、まるで誘われているみたいだな。 いいさ。乗ってやるとも。 俺は慎重な足取りで文芸部の前まで進み、中に確かに何者かの気配があることを感じながら、 思い切って扉を開けた。 さて、ボスってのはどんな化け物だ――と飛び込んで、 俺は呆然としてしまった。 後姿だ。だが見間違えるわけは無い。 そいつは窓から外を眺めて、一人、震えていた。 何が見える――って決まってる。シャドウの群れだ。もしかしたら派手に暴れている長門の姿が見えてるかもな。 そいつは俺が入ってきたことに驚いたのか、びくっと肩を震わせ、恐る恐る、ふり返った。 「……キョン?」 おい、なんで泣いてやがる。なんなんだこれは。なんのジョークだ。 シャドウのボスなんじゃないのか? なんでこいつがここにいる? それとも別人か? シャドウが化けてるのか? だが、俺がそいつを見間違えるなんてことはありえない。 いつも見ている。この部屋で、毎日顔を突き合わせてるんだ。別人と間違えるなどあろうはずがない。 だから俺には分かる。そいつは真性、まじりっけなしの本物だ。 「なにやってんだ――ハルヒ」 「わかんない……気づいたらここにいた」 ふるふると震えていたハルヒが、俺の胸に飛び込んできた。 ……おかしい。おかしいぞ。ハルヒがこんな乙女ちっくなことをするか? 「なんなのここ? あの黒いのは何? どうして有希が戦ってるの?」 「いや、それは……」 お前が望んだんじゃないのか? 口にでかかった言葉を飲み込む。ハルヒ自身は知らないことだ。 「前にも同じようなことあったよね。灰色の学校に二人で迷い込んでさ……」 ……閉鎖空間のことか。確かにあれはそう簡単に忘れられる経験じゃなかったな。 「でも、よかった。いつだってキョンはそばにいてくれるんだよね」 ぎゅ、と俺の服を掴んで、潤んだ瞳を俺を見上げてきやがった。 おいおい、これこそ冗談だろう。なんでハルヒがこんなことをしてるんだ? やっぱりこいつは偽者なんじゃないのか? 俺はシャドウの精神攻撃を受けているんだ、そうに違いない。 ……なんてな。 んなわけあるか。何度も言わせるなよ。俺にハルヒの本物と偽者の区別がつかないと思ってるのか? ああ、そうさ、こいつは間違いなく本物だ。理屈じゃないぜ。こちとら伊達でハルヒの暴挙に付き合ってるわけじゃないんでね。 「キョンがいてくれたら、あたしは平気よ。どんなことでも耐えられるわ」 そう訴えるハルヒの視線は、どこまでも無垢だ。 いや、いつものハルヒも無垢といえば無垢なんだろうが、その辺のニュアンスの違いは読み取ってくれ。 とにかくこのハルヒはヤバイな。 何がやばいって、今俺がなに考えてるか分かるか? とても文章にはできないぜ? しかし本当、どうしたもんだろうな。 シャドウのボスを倒せば終わりとかいう話だったのに、実際にいたのは大人しいハルヒでさ。 まさかハルヒを倒せなんて無茶なことを言うんじゃないだろうな。 いっておくが、俺はSOS団なんぞで下克上なんか狙っちゃいないぜ。ハルヒはいつまでも団長でいればいいのさ。 だからこのハルヒを倒せなんてことは言わないでくれよ。マジで頼むぜ。 「――それはそれで面白いかもね」 声は背後から聞こえてきた。 「……なぜお前がここにいる」 俺は怯えているハルヒを背後に庇い、そいつを睨みつけた。 いるはずのない人間だ。現実世界にも、ましてやこの影時間にも、だ。 だがそいつは――楽しそうに笑って俺たちを眺めている。自分の存在に何の疑問も抱いちゃいないようだ。 「なぜかしらね? 恐らく――涼宮ハルヒがいまだ解き明かせない謎だからじゃない? 心にわだかまっていたのかも」 カナダへ転校したって話か。ハルヒ的にはもうすっかり忘れちまったことだと思ってたがな。 「まあ、それはトリガーでしかないんだけどね。普通ならその程度であたしが現れることも無かったんだけど……」 朝倉が視線を窓の外に向ける。振り返らないぜ、そんなことをした瞬間に刺されるかもしれないからな。 「解説役をまかされちゃったみたいね。いいわ、請け負ってあげる」 誰に向かって言ってるのか、朝倉が肩をすくめた。 「人の心は一様ではないわ。必ず内側に相反する資質を備えている。一方では人を愛し、一方では憎む。それは人それぞれがもつ仮面」 ハルヒが俺の服の裾をきつく握り締めるのがわかった。 安心しろハルヒ、朝倉が何をしようが、俺が守ってやる。 「涼宮ハルヒとて例外ではないわ。外に向ける顔、内に抑えた顔、自分でも意識しない顔、いろいろな顔の涼宮ハルヒが存在する。 人はそのときの都合に合わせて顔を使い分けていける生き物だけど、それが不器用な人間もいる。そういった人が抱えていくものは、 とりあえず今はどうでもいいけれど――涼宮ハルヒだけは例外だった。なにしろ彼女には世界を作り変える力がある」 くすくす。何がおかしいのか、朝倉が笑ってやがる。 「その顕著な例が閉鎖空間。あれは――ダメね。統合思念体ですら介入が困難。けれどその発生も最近は抑えられている。 原因はあなた、でしょう?」 知るか。ハルヒが大人になってきただけだろ。それはそれで、いいことじゃないか。 「まあ、そういうことにしよっか。だけどね、さっきもいったけど心は一様じゃない。それでは抑えられない不満もあるのよ」 だろうな。だいたい閉鎖空間の発生は抑えられてるたって、こいつが暴走しっぱなしなのは変わってないんだから。 「涼宮さんが不満を持っても閉鎖空間が発生しないのは、信じるに足るものがひとつあるからね」 なんだそりゃ。 「でも彼女の中には、それを少し疑ってる彼女が存在する。彼女は無意識のうちに一つの擬似的な閉鎖空間を作り出してしまった」 ――ったく。もういい、朝倉。それ以上の説明は聞きたくない。 「答えが分かった?」 この影時間がハルヒの作った世界だってのはまあ、そんなもんだろうとは思っていたさ。 原因がハルヒの欲求不満だってのも、な。 その不満ってのが何に起因するのか――それだけが謎だったが――いや、本当は分かってたのかもな。 いまさら気づいたってわけでもないんだ。 ただそいつを認めるのは、ちょっと気恥ずかしいというかな、微妙な心理があるわけだ。 「ふふ。どうやら本当に分かったみたいね。意外と、朴念仁ってわけでもないんだ?」 そりゃあな。いくら俺でもわかるさ。自信過剰とか言うなよ? 「言わないわよ。でもま、そうね。あたしがボスの役を買ってあげてもいいわ」 そりゃどういう意味だよ。 「この世界を生み出したのはそこの女――涼宮ハルヒの仮面のひとつよ。 彼女を殺せば世界は元に戻る。ただし彼女の心の内の何かが壊れてしまうかもしれないわね。 けれどこのまま生かし続ければ、シャドウを無限に生み出し続けるのは間違いないわ。 ――さ、どうする?」 まったく、演出過剰なこったな。ごくろうさんだ。 無駄にもほどがあるがな。選べる選択肢が俺には一つしかないんだから。 俺は背中に隠していたハルヒの肩を掴んだ。 「ハルヒ、その、なんだ……」 ハルヒは――朝倉の話を理解したのだろうか、不安と期待の入り混じった複雑な顔で俺を見上げている。 「キョン……」 「不安だったか? お互いなんつーか、不器用だからな」 こくり、とハルヒは頷いた。素直、なんだろうなこういう反応も。 しょうがないな、俺も素直になってやるよ。光栄に思えよ、まったく。 「悪かったよ、ハルヒ。でもな、安心しろ。俺はいつだって、お前のこと好きで好きでしょうがないんだから」 ああ、いっちまったぜ。クールな俺さようなら。きっと後で後悔するのさ。いいさ、後悔してやる。 だからハルヒ、泣いてんだか笑ってんだかわかんない顔はやめてくれ。怖い。 「うん……あたしも、キョンが好き。ずっと好き。いつだって、キョンのことばっかり考えてる」 「そうかよ」 「相思相愛よね」 「ああ」 「じゃあ……」 ハルヒが目を閉じる。結局なんだ、これなんだろうな。いつだって白雪姫なのさ、この女は。 むろん――俺に不満などあるはずもない。 ハルヒに習い、俺も作法に則ってやったさ。 目を閉じて、柔らかくて暖かな感触を、前よりもずっと長い時間、俺は受け止め続けた。 で、気が付けば俺はいつかと同じようにベッドで寝転がっていたわけだ。 夢だったのか――って、んなわけはないか。今更過ぎる。 もっともハルヒは夢だと思ってんだろうな。そいつがちょっと残念な気もするが―― ああ、まあいいや。あんなこっ恥ずかしい思いは、ぜひハルヒ的には夢だったと思っててほしいね。 それじゃあ何も変わらんような気もするが……ま、そのうちな。 告白ぐらいは、俺のほうからしてやるから、もうちょっとだけ待ってろ。 とりあえず心宇宙人だなんだっつーキテレツな話の整理がつくくらいの余裕は、与えてくれよな。 「人間、やはり素直が一番のようですね」 その日の昼休み、古泉がにやにや笑いながら近づいてきた。 「ぜひともこちらの世界でも、素直でいてくれるとありがたいのですが」 俺はお前に素直になってもらいたいね。俺の見たところ、相当な数の仮面を隠してるようだがな。 「さて、どうでしょうね。案外僕が一番仮面をかぶっていないのかもしれませんよ?」 信じるわけは無いだろう。 「キョンく~んっ」 と、こちらは仮面など使い分けられようがない朝比奈さんがタックルを。 「心配しましたっ。シャドウを倒して、急いでキョンくんのところにいこうとしたんですけど、なぜか文芸部の部室が消えてたんです!」 朝倉の仕業か。いちおう感謝はするぜ。さすがに俺もハルヒとのキスシーンを見られるのは恥ずかしすぎるからな。 「……」 長門はいつもどおり、読書中だった。 夕べのことに関しては、特に感想は無いのだろう。 全て分かってたみたいだしな。あの朝倉は長門の仕込みもあったんだろうさ。 だが、こいつも仮面を隠してるってことがあるんだろうかね。俺も知らない長門の顔ってのをさ。 無表情を見てると、そんな誰にも教えない秘密の長門ってのがあってもいいような気がしてきたな。 いつか見せてくれる日がくるのやら。 それでハルヒだが、まあいつも通りの傍若無人で、本当に昨日のアレはハルヒだったのかとも疑ったものだが、 「しばらくSOS団活動を休んでたんだから、今日からバリバリ再開するわよ! 土日はもちろん市内の探索だからね!」 こうして振り回されてるほうがハルヒって感じでいいだろうさ。 だからま、ずっと笑っててくれ。泣いてるハルヒなんて胸に痛いだけだしな。 そうだな。 俺は初めて願うぜ、次の市内探索は是非ともハルヒと二人っきりのペアになれますように、ってな。 相思相愛なんだったら、きっちりかなえてくれよ、ハルヒ。そのとびっきりの笑顔で、さ。 「今度こそ世界の不思議を見つけるんだから! ――ねっ、キョン!」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1695.html
【涼宮ハルヒの病院】 【涼宮ハルヒの病院】長門 side 【涼宮ハルヒの病院】●とキョン
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4832.html
文字サイズ小でうまく表示されると思います 何故安価なのかは 33 33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 12 56 28.24 ID uEJYG+Qk0 いいわけ保守 なあハルヒ、このスレは本来SS投下をする為にあるんであって安価とかはまずいんじゃないのか? 投下が来た時の邪魔になるし、住人も良くは思ってないと思うぞ? 「そんな事はどうでもいいの! いい、キョン。この場合一番重要なのはプリンが生き残る事、それだけよ。 そりゃああたしだって、本当は投下を期待してF5押しながら支援カキコしてたいわよ。でも今は規制のせいで 住人が殆どいないじゃない!」 そりゃあ、まあそうだが。 「明日になればきっと誰かが戻ってくる、あたしはそう信じてるもの! だから私は意地でもここを存続させる から邪魔しないで!」 ……なあ、ハルヒ。お前、なんでそんなにプリンの存続にこだわるんだ。 「え?」 別に今もアナルは生きてるんだし、規制されてる人が帰ってきてからスレを立ててもいいだろ? 「……だって」 ん。 「だって……ここがなかったら、あたしとキョンのSS書いた人が投下してくれないかもしれないじゃない」 なんだ、声が小さくてよく聞こえな「うるさい!! バカキョン! いいから存続させるの! いいわね!」 1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 09 12 27.95 ID uEJYG+Qk0 8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 09 48 25.98 ID uEJYG+Qk0 適当にはじめてしまおう 何事もない日常が喜び。 ハルヒに振り回され続けてきた俺は、たまに本気でそう思う事がある。 でもまあ、ここまで退屈だと逆に何か起こってくれないかね? なんて思うのは 贅沢なのだろうか。 せっかくの休日だというのに今日は何の予定もなく、朝から何度も確認しみても 携帯の電源は入っているのに着信はない。 これは神様が俺に休憩しろとでも言っているどうろうか? だとしたらその余暇を楽しむ何かまで準備して欲しかったってのは、望み過ぎ なんだろうな。 10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 09 55 41.85 ID uEJYG+Qk0 出かけるあてなどないのだが、とりあえず着替えてだけおくか。 クローゼットの中の私服は、我ながらレパートリーが少ない。ああそうだ、買い物 に行くなんてものいいかもしれないな。 結局、着なれたいつもの服装に着替えた俺は―― 11 反応なければ適当にいきます 1 誰か誘ってみるか 相手指定可 2 今日は一人で行動しよう 11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 10 06 50.18 ID uEJYG+Qk0 適当~ 誰か誘ってみようか? そう思って携帯を開いてはみたが何となくその気にならない。 たまには一人で出かけてみるか。 俺は開いたばかりの携帯を閉じてポケットに入れると、自分の部屋を後にした。 休日だというのに、街に溢れかえっているのはスーツや事務服に身を包んだ人ばかり だというのはどうなのかね? 週に一度は魂の安息日があってもいいと俺は思うぞ。 そんな上から目線で、実際にファーストフードの2階席から歩道を見下ろしながら 簡単な朝食を済ませる。 12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 10 13 39.95 ID uEJYG+Qk0 一人だと相手を選んで店を決めたりしなくていいから気楽でいいな。 いつもの休日なら、気忙しく食べ終えて移動するだけの食事なのだが今日は違う。 多少冷えて適温になったコーヒーをゆっくりと飲みつつ、俺はゆったりとした時間を 楽しむ事にした。そういえばマックのコーヒーはおかわり実はできるらしいが、本当 なんだろうか? こんな小さなコップにおかわりってきついだろ、頼む方も持ってくる方も。 時間は……10時か。 手元のレシートで会計時間を見るとまだ20分しか経っていない。 14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 10 21 21.40 ID uEJYG+Qk0 やれやれ、気忙しいのは俺も一緒か。 嘘をついても仕方ない、早くもこののんびりとした時間に俺は退屈しはじめていた。 あてもなくぶらつくのもいいが、どうせなら何か――ああ、今日は服を買うんだったな。 空になったゴミが満載のトレーを片付けるついでに、俺は店にあったフリーペーパーを 一部もってきた。 今日の俺にはそれほど資金に余裕があるわけでもないし、何軒も店を回る気力もない。 よさそうな店が無いかページをめくっていくと、まあ俺でもなんとか手が出そうな店が 数軒見つかる。 それは ↓ 1 駅裏のアーケードにできた個人経営の店だった 2 最近人気のブランド物を扱う専門店だった 15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2008/09/14(日) 10 24 47.67 ID /F2MYmMC0 1 16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 10 29 22.74 ID uEJYG+Qk0 「あっれー? キョン君じゃないか!」 駅裏のアーケードの一角、つい先日できたばかりらしいその個人経営の店の前で、俺は やけに元気な先輩と出会った。額によくわからないインドちっく? なバンダナを巻いて 笑っているのは言うまでもなく鶴屋さんである。 「おんや? あれ? 何故だろう、鶴屋さんは俺を見つけて駆け寄ってきた途端、何かを探すようにオーバー リアクションで俺を起点にぐるぐると回っている。 どうかしたんですか? 「どうかもなにかも、キョン君。君、一人なのかい? ええ、今日は一人です。 俺の返答がよほどショックだったんだろうか、鶴屋さんの笑顔が一瞬固まる。 17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 10 35 41.93 ID uEJYG+Qk0 「え、あ。あっははー! その、うん。なんだ。人生は長いぞ少年!」 突然俺を抱きしめて、鶴屋さんは意味のわからん事をいいながら背中をばんばんと叩いて きた。 え? あのどうしたんですか? 「まあハルニャンは気まぐれな所もあったりするからさー、ちょろっと離れる事があっても 元通りになる時は磁石みたいにばちーんって一瞬だよ!」 あの、鶴屋さん。 ↓ 1 よくわからないが誤解を解こう 2 まあいいか、このままにしておこう 18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県):2008/09/14(日) 10 36 54.51 ID RpStx02Y0 1 20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 10 46 14.02 ID uEJYG+Qk0 よくわからないが誤解を解こう ハルヒとは別に何もないですよ。今日はたまたま一人で買い物に来ただけなんです。 「へ? ……あ、そうだったんだ。ごっめんねー!」 とか言いながら俺の頭をぐりぐりと撫でる鶴屋さんを見て、うちの妹が大人になったら こんな感じになるんだろうか? と俺はシャミセンいじりに邁進する我が家の暴君の十数年後を 想像してみた。 「で、キョン君はあたしのお店の記念すべき最初のお客さんになってくれるのかな?」 へ? あなたのお店? 「あれー? 知ってて来てくれたんじゃなかったのかい? 本日12時オープンのファッション 雑貨『なまらすて』をよろしくぅ!」 持ってきていたフリーペーパーを見てみると、確かに店の連絡先の所に鶴屋という文字がある。 実は高校生向きファッションショップというカテゴリーと、駅から近いという理由だけで選んだ んだけどな。 22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 10 54 37.56 ID uEJYG+Qk0 なまら……すて、北海道の訛りなのか外国の挨拶なのかそのどちらもなのかよくわからない 名前だ。だが店の名前が意味不明なのに対して、店の商品は実にわかりやすい品揃えだった。 高校生向きと言うだけあって、俺でも簡単に手が出る値段の商品がそれほど広くない店内に 空間を意識しながら展示してある。 「開店までまだ1時間あるけどキョン君なら入っちゃってもいいにょろよ?」 それは、その有難い申し出だ。だがいいんだろうか? 「いいんだって、だって私店長さんなんだもんね!」 俺の返事を聞く気はないのだろう、さっそく俺の腕を掴んで鶴屋さんは店内へと案内というか 拉致してくれた。 流石は鶴屋さんといった所だろうか。店内に並んだ商品はどれもはずれがなく、適当に買って 帰っても後悔はしない様に見える。 「さーて、じゃあキョン君に似合いそうなのは……と」 どうやら一緒に服を選んでくれるつもりのようだ、 ↓ 1 せっかくだが一人で選ぼう 2 ここはプロに任せよう 23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(コネチカット州):2008/09/14(日) 11 06 31.83 ID neBvtuvmO 2 24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 11 14 29.82 ID uEJYG+Qk0 ここはプロに任せよう。俺のセンスがどれ程のものかくらいわかってるさ。 「キョン君は無理にかっこつけた服よりも、ポイントでセンスが光る服の方が合ってると思うん だよね」 俺と服とを交互に見ながら、鶴屋さんは駄菓子でも買うかのような勢いで服を集めていく。 あの、それもしかして全部。 「もっちろん試着してもらうよ! さあさあ、とりあえずこれとこれで着てみて! こっちを 上に着るんだからね?」 試着室になかば押し込まれるようにして閉じ込められた俺は、まあ仕方ないかとため息をついて 見つくろってもらった服に着替え始めた。 ――これが、俺か。そうか。 数分後、全身が写る鏡の前に居たのは俺が見てもそれなりに見える外見の男だった。さっきまで の、延滞したビデオを返しに行く途中にしかみえない男はもうここには居ない。 服で印象が変わるなんて無いって思ってたが、選ぶ人によってはあるんだな。 「もーいーかいっ?」 あ、はいどうぞ。 「御拝けーん……おー! さっすがあたし、完璧じゃないかー!」 俺もびっくりしました。 25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 11 21 18.14 ID uEJYG+Qk0 次に着せようと持ってきていた服をあっさりと投げ捨てて、鶴屋さんは俺を試着室から引っぱり 出すってああ、待って下さい! 靴を履いてないんです! 「いやー、素材は悪くないと思ってたけどこれは予想以上。カツオがマグロになっちゃったねー!」 それってどっちが上なんでしょうか。 ちなみに外国だと、どっちもツナだったりするらしいですよ? 「ねえ、キョン君。これから一緒にどこかへお出かけしないかい?」 ええ?! って貴女はこのお店の店長さんなんでしょう? 「大丈夫だって! 初日だからバイトさん雇ってるし問題無いっさ!」 って、その ↓ 1 やっぱりまずいですよ 2 まあいいか 26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟・東北):2008/09/14(日) 11 24 41.39 ID 3wOPtLBVO 2でお願いします 27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 11 38 07.56 ID uEJYG+Qk0 まあいいか、たまにはハルヒ達以外の人と遊んだっていいだろ? 俺は大人しく頷き、それを見た鶴屋さんは向日葵の様な笑顔を浮かべた。 「みくるから色々聞いてはいるんだけど、キョン君はどんな所で遊ぶのが好きなのかな?」 そう言われると、どことかは無いですね。 ティーンズ雑誌の表紙を飾ってもおかしくないレベル、つまりは道行く人の誰もしも振り返るような 外見の鶴屋さんと二人っきりで歩くのは、普段の俺ならご遠慮したい。 だが今の俺ならば、そんなに自分を卑下しなくてもすむはずだ。多分。 「あっれー? キョン君元気ないくないかい?」 鶴屋さんは、呼吸が感じられる程近くで覗き込んでくる。 思わずのけぞった俺の胸に指をあてながら、 「あたしが選んだ服を着てるのにそんな自信なさげな顔じゃだめさー? さあ笑って! ね!」 今更なんだけど鶴屋さんの喋りがよくわからない; 誰か鶴屋さんのセリフが多いSS知ってる人いないかい? 28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 11 48 14.40 ID uEJYG+Qk0 そう言って俺の頬をひっぱる鶴屋さんの顔に、何か言葉以上の感情があるような違和感を感じる。 ……あ、そうか。鶴屋さんは俺に気を使ってくれてるんだな。言葉の所々に感じるニュアンスと、時折 俺の顔を見つめてくる仕草が気になってはいたんだ。 鶴屋さんは多分、俺がSOS団の誰か。まあ、多分ハルヒとの間で喧嘩でもしてると思ってるんだろう。 そう思うのも無理もない程に、俺の行動にはSOS団の誰かが関わっていたからな。 ようやく俺に笑顔が戻ったのを見て、鶴屋さんは満足げに頬をつまんでいた指を離す。 「さ! 今日は記念すべきキョン君とあたしの初デートだよ! 気合い入れてエスコートして、彼女の ハートをがっつりお持ち帰りしちゃってね?」 えっと、それはどこから突っ込めばいいんですか? ……反応なし。おかしいな、俺の反論はどうやら鶴屋さんには聞こえない様だぞ。なんて便利な耳だ。 さて、とりあえず歩道で立っていても仕方ない。どこかへ行くとするか……。 ↓ 1 公園でいいかな? 2 図書館に行ってみよう 3 休みだけど学校に行ってみようか 29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(コネチカット州):2008/09/14(日) 11 52 34.81 ID neBvtuvmO 1 34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 13 04 28.27 ID uEJYG+Qk0 言い訳書いてる暇がどこにあったのかと 休日の公園は騒がしい街とはうって変わって、子供連れの主婦が数人しか見えない。 俺の隣を歩く鶴屋さんは絡んでくる子供の相手をしたり、やれ空に浮かぶ雲の形が何に似ているだのと はしゃいでいる。 いいね、これこそまさに安息日ってやつだ。 俺は俺でそんな彼女の姿を目を細めながら眺めつつ、のんびりとした時間を楽しんでいた。が。 「ねーキョン君さ。……みくるが秘密を打ち明けた公園にあたしを連れてきて、どうしちゃうつもりなのかなー?」 平穏な時間はあっさりと終わった。 って今のはマジなんですか? まさか朝比奈さんは鶴屋さんに全部話してしまっているとか? ↓ 1 鶴屋さんも、朝比奈さんが未来人だって事知ってるんですか? 2 俺には、その。何の事だかさっぱりです 35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(コネチカット州):2008/09/14(日) 13 09 22.03 ID UndwICEDO 2で つか爆睡かましてたらアナルが落ちてたorz 36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 13 23 16.93 ID uEJYG+Qk0 俺には、その。何の事だかさっぱりです。 いくら朝比奈さんがうっかりさんでも、禁則事項に関わるような事を口を滑らせるとは思えない。俺は冷や汗を かきながら鶴屋さんに嘘をついた。 しばらくの凝視の後。 「……そっかー。そうだよね、うん。ごめんごめん! ちょっとさ、みくるの様子が変だったから気になっててね」 え、朝比奈さんがですか? 疑う様だった鶴屋さんの眼差しが消える。 「みくるからキョン君の話を聞いてた時にね? この公園でキョン君に何か大切な事をお話したって所までは教えて くれたんだけど、それ以上先はどー頑張っても教えてくれなかったのさ~」 ……朝比奈さん、そこまで話したら誰でも気になると思いますよ? 「それで、もしかして君が何かみくるといけないお話でもしちゃったのかなって思ってね~。……ねえキョン君」 はい。 「みくるはさ~、なんていうかぼんやりさんでおっちょこちょいで目が離せない所ばっかり目立っちゃうけど、 本当は色々溜めこんじゃう娘なのさ。だけど人には言えない性格なのか、言えない内容なのかわかんないけど、 自分だけで頑張っちゃっててね~……そんなみくるもさ、キョン君には話せる事が多いみたいだから助けになって あげて欲しいな?」 最後の方は寂しそうな声で、鶴屋さんはそう言った。 39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 13 39 38.67 ID uEJYG+Qk0 俺にできる事なら。 もちろんこれは俺の本音だ。心のオアシスでもあり部室の天使でもある朝比奈さんの手助けになるなら、頼まれる までもなくなんだってするだろう。 パッと笑顔になる鶴屋さん。 「よろしく頼んだよ!」 そう言って鶴屋さんは背伸びをすると――冷たく柔らかい何かが触れる――素早く俺の頬にそっと触れるキスをした。 な、な。え? 驚く俺とは対照的に、鶴屋さんは平然とした顔で自分のポケットで振動していた携帯を取り出して何やら確認をしている。 そして急に顔をしかめて 「えー! そんなぁ~……残念だけどキョン君、あたし今すぐお店に戻らなくちゃいけなくなっちゃったよ。在庫が 尽きちゃって大変なんだって」 ええ? ってああ、俺の事は気にしないでいいですよ。 ところでさっきのはいったい、ってここは聞くべきなのか? 「ほんっとごめんよ? この埋め合わせは絶対するからー……絶対するからねー!」 手を合わせて謝ったかと思うと、すぐさま走り出し、何度も振り返りながら鶴屋さんは去って行った。 鶴屋さんの姿が見えなくなった所で、そっと自分の頬に触れてみる。 ……どうやら、さっきの白昼夢の類ではないらしい。 一人公園に取り残された俺は、自分でも意味のわからない溜息をつきつつ家路についた。 なんていうか、ハルヒとは別の意味で台風みたいな人だな。 42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 13 58 13.27 ID uEJYG+Qk0 その日、久しぶりに自室のクローゼットに新しい服が追加された。並べてみると、そこだけ自分の服じゃないみたいで なんだか変な感じがするな。 次の休日が待ち遠しいなんていつ以来の感情なのかわからない、俺はその日の出来事を思い出しながら眠りについた。 ――翌日、いつもなら気だるい通学路も普段の20%増し程度の元気で登り終え、平均より10分程早く教室に入った 俺の目に入ったのは机にのびているハルヒだった。 めずらしいな、あいつにしては。 俺が席についてもハルヒは動こうとしない、流石にここまでくると気になってくる。 おい、大丈夫か? 俺の声に数秒遅れて、ハルヒがゆっくりと顔を上げる。 「……ああ、キョン。いつ来たの?」 今さっきだ。 「そ」 再び机との同化作業に戻るハルヒ。 ハルヒ、体の調子が悪いのか? 保健室に行くならついて行ってやるが。 「いい。……昨日、親戚が1歳になった赤ちゃんを見せに来たんだけどね。その相手をしてて本気で疲れてるだけ」 そりゃあ……大変だったな。 お前の相手をしている俺達の大変さが少しはわかったか? なんて本音は言わないでやるよ。なんせ俺は充実した 休日だったからな。 「キョンは」 ん? 「キョンは昨日何してたの?」 ああ、俺か。 ……さて、ここで鶴屋さんの名前を出すべきか…… じゃあ安価で ↓ 1 やめておこう。昨日は買い物して終わったよ。 2 まあいいか。昨日は鶴屋さんの店で買い物してきた。 3 たまには驚かせてやるか。昨日は鶴屋さんとデートだったんだ。 43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県):2008/09/14(日) 13 59 47.34 ID npWD+ams0 3 44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2008/09/14(日) 14 09 56.12 ID /F2MYmMC0 古泉君スタンバイ 45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 14 11 50.23 ID uEJYG+Qk0 たまには驚かせてやるか。 昨日は鶴屋さんとデートだったんだ。 「はあ?!」 でかい声をだしつつ即座に体を起こすハルヒ。 おでこ、真赤だぞ。 「えっあっ……ちょっとキョン。今のって本当なの?」 前髪でおでこを隠しながらハルヒは睨んでいる。 嘘か本当かと聞かれれば……本当なんだが、まあ古泉の気苦労を増やすのも悪い気がする。あいつに恨みがある訳でも ないしな。 冗談だ。昨日買い物してたら偶然あってな、服を選んでもらったんだ。それだけさ。 「……あ、あんまり変な事言わないでよ。でもまあ、よくよく考えてみれば鶴屋さんがあんたみたいなのとデートする なんて地球が逆回転を始めるよりありえない事よね。一瞬でも信じたあたしがどうかしてたわ」 そうかい。 ずいぶん安くなっちまったな、地球。 46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 14 21 37.98 ID uEJYG+Qk0 これでこの件は終了。 だったらよかったんだけどなー。それから時間は進み今は昼休み、どこかへでかけていくハルヒを見送り、のんびりと 弁当を広げていた俺の携帯が振動をはじめた。相手は……古泉? 箸を置いて、なんとなくその場で話すのを躊躇った俺は廊下に出てから受話ボタンを押した。 もしもし。 「何があったんですか?」 主語がないぞ、古泉。それにそれは俺のセリフだ。 「すみません、ですが答えて下さい。涼宮さんに何かしましたか?」 何かって……特に思い当たらないが。 「実は、ついさっきいつになく巨大な閉鎖空間が発生しました。これは涼宮さんにいきなり大きなストレスがかかったと しか考えられません」 落ち着けって、まあやばいのはわかった。でも俺はここ数時間ハルヒの頭を叩いたりもしなかったぞ?叩かれはしたが。 それに授業中だったから特に何かあったとは思えん。 「確かにそうですね……、ちなみに、貴方の言う物理的な理由では涼宮さんにストレスがかかる事は殆どありません。 ありえるとしたら……そうですね、貴方が涼宮さんの目の前で誰かとキスをする、そんな状況を見れば今のような閉鎖空間も 発生しえるでしょう」 古泉、ここは学校だぞ? そんな事がある訳……あ。 「ど、どうしました?」 49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 14 35 38.75 ID uEJYG+Qk0 あ、いや。実は昨日、俺は鶴屋さんと買い物をしてたんだが。 「はい」 そこでキスされたんだ。 「……」 痛いほどの沈黙が流れる。 で、でも、あれは不可抗力だったし昨日の事なんだから今回は関係ないだろ? それに俺はハルヒには、買い物中に 鶴屋さんと会ったとしか言ってないぞ。 「事実はともかくとして、もしも涼宮さんがその事を鶴屋さんに確認に行ったら」 古泉の言葉に、俺が想像した鶴屋さんのリアクションのどれもが、あっさりキスの一件まで伝えてしまう姿だった。 「すみません、僕は機関の仕事に戻ります。すみませんが涼宮さんの事をお願いします!」 おい待て古泉! お願いするったってな? ――ええい、切れてやがる。 別に俺はハルヒと付き合ってる訳じゃないのに、そこまで気をまわさなくちゃいけない理由ってのはなんなんだろうな? ああそうか、世界崩壊の危機だったな。……笑えねー。 ともかくだ、ここは ↓ 1 ハルヒを探そう 2 長門に相談しよう 3 朝比奈さんに話をしてみよう 50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(コネチカット州):2008/09/14(日) 14 37 16.58 ID neBvtuvmO 1 52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 14 46 21.17 ID uEJYG+Qk0 ともかくだ、ここはハルヒを探そう。 鶴屋さんとハルヒが会ったっていうのが本当なら、多分2年の教室の近くに居るはずだ。 生徒で溢れかえる昼休みの廊下を、俺は世界を救うべく全力で走っていた。 そこら中から感じる奇異の視線。 そうだな、俺もこんな変なのが居たら目で追うだろうよ。 ついでに言えば入学したばっかりの頃のハルヒはこんな視線をいつも受けてたんだろうな。 幸運にも教師に見つかる前に、俺は2年の教室まで辿り着いた。 えっと、鶴屋さんは……しまったあの人が何組なのか俺は知らないじゃないか? 朝比奈さんに電話した方が確実なんだろうが、ともかく今は時間が惜しい。俺は順番に教室の中を覗き込みながら ハルヒの姿を探していった。 そんな不審行為を繰り返していると、 「あっれー? キョン君じゃないかー」 廊下を歩いて来たのはまさに渦中の人、鶴屋さんだった。 54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 14 55 44.12 ID uEJYG+Qk0 53 本当に言ってねー 鶴屋さん、ハルヒがここに来ませんでしたか? っていうか何か話しませんでした? 「ハルニャン? きたよー、昨日キョン君とチューしちゃったーって言ったらめがっさ怒って何処かへ行っちゃったにょろ」 ――世界が停止したかと思った。……古泉、最悪な方向にビンゴだぞ。 急な運動による胃痛と、止まらない頭痛に思わず頭を抱える。 あーくそう! なんで朝、俺はあいつにあんな事を言ってしまったんだ? そんな事言うつもりはなかったのに! 「ちょっと大丈夫かい? 顔色が真っ青だよ?」 ええまあ、これくらいなんてことないんです。はい。 これから起きるかもしれない事を考えれば、俺の体調不良なんて1ジンバブエドルと等価なんです。 それで、ハルヒはどこへ? 「あっちだよ。でもどこに行くかは聞いてなかったな~」 ともかく今は動くしかない、俺は疲れた体に鞭打って再び廊下を走りだした。そして間もなく階段の踊り場に辿り着く、 ハルヒは上か? 下か? 1 上 2 下 3 一人では探しきれない、誰かに助けを頼もう 55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(コネチカット州):2008/09/14(日) 15 05 18.49 ID neBvtuvmO 上 59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 15 18 34.75 ID uEJYG+Qk0 書き手が一人の間はこれでもいいかもね 上に行ってみよう、なんとなくハルヒと言えば高い所にいるイメージがある。それに一度降りて上がるよりは、先に 上がって降りた方が体的にも楽だろう。 これで重労働は最後だと気合いを入れて階段を上った先には、ああそうだ、そういえばここだったんだな。 あの日、部活を作る事を思いついたハルヒに拉致されてきた屋上への扉があった。 鍵は……開いている。 勢いのままに扉を開けたそこには……、誰も居なかった。 一応ぐるりと回ってはみたが、広い校舎の屋根部分に簡単な柵がついているだけで誰の姿も隠れる場所も見当たらない。 くそっはずれか? 「おーい、キョン」 誰かの声が下から聞こえてくる。この声は、 「お前そんな所でなにやってんだ?」 グランドから叫んでいたのは谷口の奴だった。隣には国木田の姿も見える。 おい! ハルヒを見なかったか? 「涼宮? 涼宮ならさっき部室棟の方に歩いてたぞー? っていうかお前午後の授業さぼるつもりか?」 「キョンー。僕の机の上に置いてあったお弁当はキョンの机の中に入れておいたからねー」 二人の声を最後まで聞く事無く、俺は本日何回目かの全力疾走を自分の足に命じた。 62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 15 37 36.41 ID uEJYG+Qk0 じゃあとりあえず16:00で一回切れる様にごまかします 30分程の用事もあるし 詳しい言い訳は 33 俺の選択のどこに間違いがあったのか、それともそもそも俺の選択など何の意味ももたないのか。 昼休みが終わる鐘が鳴って静まり返った廊下を俺は必死に走っていた。 授業中のクラスの近くを通るのはなるべく避けながら、ともかく部室棟へと急ぐ。 中庭から見えるグランドでは谷口達がサッカーに興じているのが見える。 ああくそっ! いったい俺は何をやってるんだろうなーもー! 部室棟の中は当たり前だが静まり返っている、俺の階段をかけのぼる音だけが大きく響き、ようやく部室の前まで 辿り着いた時は、今度は俺の荒い息だけが響いていた。 頼むぜハルヒ、ここに居てくれよ? 会った所でなんて言えばいいかなんてわからないが、会わなけりゃアウトな事だけはわかる。 息を飲みながらドアノブに手をかけ、ゆっくりと回す。 扉の向こう、部室の中に居たのは…… 1 よかった、ハルヒがそこに居た。 2 古泉、なんでお前がここに? 3 長門、お前だけか。 4 すみません、間違えました。俺を見つめるいくつかの不審な目、間違ってコンピューター研の扉を開けていたらしい。 65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(コネチカット州):2008/09/14(日) 15 47 07.84 ID neBvtuvmO 2 68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 15 56 34.43 ID uEJYG+Qk0 古泉、なんでお前がここに? 部室の中に居たのはハルヒではなく古泉だった。 「貴方こそどうして、涼宮さんを探していたのではないんですか?」 探して辿り着いたのがここなんだ。で、お前は? 「閉鎖空間の発生地点がここなんです、僕は外の状況を確認するために一度出てきた所なんですが……まさか、もしかして?」 古泉は驚いた顔で部室の窓を見つめる、……嫌な予感がする、しかもそれが的中してしまうような……。 まさか、ハルヒは。 俺の言葉に頷く古泉。 「どうやら、涼宮さんは自分で作った閉鎖空間の中へ入ってしまったようですね」 悪い予感ってのはなんでこう当たるんだろうな、誰か教えてくれよ。 「神人は広範囲に分散して現れていますが、万一涼宮さんが遭遇してしまったら終わりです。すみませんが……」 わかってるよ、俺も行けばいいんだろ? 「申し訳ありません」 今回は俺の不注意が原因みたいなもんだ、気にしなくていい。 74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 16 40 11.76 ID uEJYG+Qk0 なんだろう、ここ。 気がついた時、あたしは不思議な場所に居た。 そこは見た目はあたしのSOS団の部室なのに、一切音が無く窓の外は色が無い灰色の世界が広がっている。 この場所にあたしは……うん、きっとそう。ここに私は来た事がある。 ともかく誰か居ないか探さないと。 77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 16 59 05.25 ID uEJYG+Qk0 まるで気圧の違う場所に入ったかの様な違和感。 「もういいですよ」 目を開いた時、そこにあったのは数秒前と変わらぬ部室の風景。そして窓の外に広がる灰色の世界だった。 今の所、窓の向こうに青白く光り輝く巨人の姿は見えない。 「学校の傍の神人は閉鎖空間の発生した時に退治しました。ですが、神人が再び現れないとも限りませんので 急いで涼宮さんを探しましょう」 ……そうだ、簡単な方法があるじゃないか! 「え?」 俺は窓を開けて中庭を見回す、そこにハルヒの姿は見えない。が ハルヒー! 俺の声が静まりかえった校舎の隅まで響いていく、ええいもう一度だ! ハルヒどこだー! 再び響き渡る声に、返ってくる返事はなかった。 「……これは、盲点でした。確かに大声で呼べば早いですよね」 でもダメみたいだな、もう遠くに行ってしまってるのか? 「いえ。涼宮さんの反応がここで感じられる以上、少なくとも学校の敷地内に居る筈です」 なるほど ↓ 1 もう少しここで呼びかけてみるか 2 二手に別れて探しに行こう 3 僕となるべく離れないでください。神人が出現した時に僕が居なければ危険です。 78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(コネチカット州):2008/09/14(日) 17 01 20.54 ID neBvtuvmO 2 79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 17 12 29.31 ID uEJYG+Qk0 なるほど、二手に別れて探しに行こう。ハルヒが学校から出てしまったら探しきれなくなる。 「了解です。何かあったら古典的ですが大声を出してください、すぐに駆けつけます」 ああ、その時は頼むぜ。 とりあえず古泉はまず部室棟を探し、終わったら本館の上階を。俺は本館の1,2階を探す事になった。 静かな本館の中、俺の歩く足音だけが廊下に響く。 途中までハルヒ出て来いよーなどと叫んでいた俺だが、今はそれにも疲れ、とにかく教室という教室を順番に 調べて回っていた。 ハルヒが何故出てこないのか? まあ理由は色々考えられる。 例えば、あいつがこの世界で寝ているとか気を失っているとかそんな理由で俺の声が聞こえなかった。まあ、 これならいいんだ。これなら。 問題なのは、俺の声が聞こえたけど出てこなかった……つまり理由はわからないが俺達から逃げていたら? そうなったらちょっと厳しいかくれんぼになるぞ、なんせ範囲は無制限なんだ、。 80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 17 20 14.76 ID uEJYG+Qk0 職員室を見た後、1階の各教室を順番に回ってきたが成果0。古泉の声も聞こえてはこない。 いったいハルヒは何処にいるんだ? とりあえず足は止めないが、俺はあいつが行きそうな場所を考えてみる事にした。 あいつが一人で行きそうな場所か……あ、そういえば校舎内をくまなく探した事があるって前に言ってたな。 それだけで全ての場所が候補になるってのはきついぜ。 でもまあ予測だけでも立てるとすれば、だ。 ↓ 1 あいつは屋上で何か投げてなかったか? 2 プールのふちに立ってるのを見た事がある気がする。 3 あ、音楽室はどうだ。前にピアノを弾いてた様な。 81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(コネチカット州):2008/09/14(日) 17 25 59.37 ID neBvtuvmO 3 89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 18 21 06.58 ID uEJYG+Qk0 あ、音楽室はどうだ。前にピアノを弾いてた様な。 1,2階の捜索を終えていた俺は、とりあえず音楽室へと向かった。 「ねえキョン、なんだかすごい1年生がピアノの演奏してるんだって。見に行かない?」 そう国木田が聞いて来たのは入学式が終わって数週間後の昼休みの事だった。ちなみにそれはハルヒが ありとあらゆる部活に仮入部を繰り返してはどこにも入部しないという意味不明の行動に勤しんでいた時 でもある。 だから俺はそのピアノを弾いてる凄い1年ってのもハルヒの事だろうと思い、行くのを躊躇っていたの だが――あいつがピアノを弾く姿ってのは想像できないな――怖いもの見たさ、って奴だろう。 弁当を食い終えて重くなっていた腰を上げていた。 人だかりのできた音楽室の入口、開いたままの分厚い扉の中から聞こえてくるピアノの音。 俺が人垣の隙間から背を伸ばして見たのは…… あいかわらず上手いな。 俺の言葉と同時にピアノの音が止む。 あの時と同じ音楽室の分厚い扉の向こう、防音になった部屋の中で一心不乱でピアノを弾くハルヒの姿がそこにあった。 99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 19 10 49.37 ID uEJYG+Qk0 どうやら見つけたみたいですね。 本館の中を歩いていた時、そのピアノの音は聞こえてきた。それと同時に不安定だった涼宮さんの気配も 一瞬強くなり、また小さくなる。 なるほど、音楽室でしたか。これは盲点でした。 この建物に居る人の気配は僕と彼、そして涼宮さんだけ。となれば涼宮さんと一緒にいるのは彼しかいない。 何とか事態は解決に向かいそうですね――そう思って一息ついた古泉を待っていたかのように、グランドの中央に 神人はその姿を現した。 「……キョン」 どうやら本気で弾いていたらしく、ハルヒの息はあがっている。 なるほどね、気を失っていたのでも俺達から逃げていたのでもない。本当に声が聞こえない所に居たとは 予想外だったよ。 だが見つけたのはいいが、これからどうすればいいんだ? 「ねえ……」 そこまで口にして、ハルヒは黙ってしまった。ただでさえ物音がしない防音室の中に、痛い程の沈黙が広がる。 かといって俺から口を開こうにも、なんて言っていいのかわからないんだが。 101 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 19 11 29.53 ID uEJYG+Qk0 これは……僕ひとりでは厳しいかもしれません。 グランドの上に現れた神人はサイズは小さいものの全部で3体、通常であれば能力者4人以上で対応するのが セオリー。だが今はそんな事を言っている時間はない、もしも涼宮さんに万一の事があれば文字通り全ては終わって しまうのだから。 赤い光が浸み出して光の球体が体を包み込む。 頼みましたよ? 近くの教室の窓から飛び出した僕は、一番近くに居た神人の左腕を切断しながら舞い上がった。 パサリと何か紙をめくる音がする、見ればハルヒは楽譜を取り換えてピアノの上に置く所だった。 ……さて、何を聴かせてもらえるんだろうね? 壁際に置かれた椅子を一つ取り、ハルヒが見える位置に置いて座ると流れるように音が溢れ出した。 俺にはピアノ曲なんてもののタイトルはわからないが、ハルヒが弾いたのは優しいメロディーだって事はわかる。 その曲に聞き惚れつつハルヒを見てみれば……楽譜の意味あんのか? ハルヒは俺の顔を見ながらピアノを弾いて いた。時折目を伏せたり、また見開いて見つめてきたりと表情を変えるハルヒに合わせるように、曲もまた変化して いく。 102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 19 12 09.77 ID uEJYG+Qk0 これは……いったいどういう事なんでしょうね。 神人を引き付けながら空中を浮かんでいた古泉が見たのは、突然静かになった神人達の姿だった。 これまでに数多くの閉鎖空間に入ってきたけれど、こんな事は初めてだ。 驚きつつも念のために距離を置いたまま様子を伺っていると、神人達の光量が緩やかに衰えていきやがてそのまま 消え去ってしまった。 「そんな? ありえない?」 神人は涼宮さんのストレスが無意識の中で実体化した物のはず、それが自然消滅するなんて事があるはずが……。 103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 19 12 44.86 ID uEJYG+Qk0 ……ん、何か冷たい物が頬に……。 おぼろげな意識の中でそう感じた次の瞬間。 「起きなさい!」 俺の脳天に叩きつけられる何か。衝撃と共に目に入ってくる光景は……。 部室か。 「あんたまだ寝ぼけてるの? 岡部がめちゃくちゃ怒ってるんだからさっさと来なさい!」 座った俺の隣でハルヒが怒鳴ってる……って事は、そう言う事か。 「古泉君は先に行ったわよ。いい、あたしはちゃんと起こしたからね? まったく、古泉君と二人で部室で寝てる なんてあんた達なにしてたのよ?」 そうかい、そいつは悪かった。 でもお前のおでこが赤いのはなんでなんだろうな。 まだ意識ははっきりしないが、なんとなくどうなったかはわかるさ。つまり古泉はハルヒも含めて俺達3人が この部室で寝ていた事にしたって事だろう。そしてハルヒだけを起こしてやれば誤魔化せるって事か。 俺は世界の存続を祝いつつ、力の入らない体に活を入れようと腕をのばした。 あくびをしつつ、ふと気がつく。 ハルヒ。 「何よ。急がないと怒られるだけじゃ済まなくなるわよ?」 お前、何か俺にいたずらしたか? 何か頬が濡れてるみたいなんだが。 急にハルヒが俺に背を向けて扉に向かって走っていく、っておいハルヒ? 「しっ知らない!」 バタン! ……そう言い残してハルヒは部室から出て行ってしまった。 ……なんなんだ? あいつは。 涼宮ハルヒの失踪 終わり その他の作品
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3343.html
0:夢 夜空に輝く天の川。 周りの喧騒がひたすら耳障りだった。 瞼は開いているが、飛び込んでくる情報は限りなく絞られ、指向性を持たされている。 ぼんやりと認識されるのは、人の声と、顔と、感触と……。 水滴。 とうとう雨が降り始めた。 雨脚は強まっていく。 ああ、星が綺麗だ。 俺は願った。 次に目が覚めるその時は、今より強い自分であれますように。 …………。 やがて俺は溺死した。 1:予言 世界の始まった日。 諸説ある。 うん十億年前。 四年前。 昨日。 今。 記憶という脆弱な結晶体を、証明する術はまだない。 出口の見えないラビリンス。 迷子になった思考が、己の存在の危うさを露呈させる。 だからこそSOS。 信号を発信し、居場所探し。 助けてください。 このSOSがあなたに届きましたら。 どうか早急なる救出を。 当サイトはもれなく未来永劫リンクフリーです。 § 「…………」 デリート。 …………。 ………………。 「U、N、K、O」 カタカタカタ。 うんこ。 ついでにネットで拾ってきた画像も貼り付けてやる。 「ふう……」 業務終了。 「いたっ」 背後からしたたかに殴られる。 振り向く。 顎を少々持ち上げ、視野とフォーカスを調整。 無自覚な行動の先に待ち受けていたのは、艶やかな十二単に身を包んだ麗しき姫君。 だったらいいな。 ないけどな。 「アホキョン」 目が合った瞬間、罵倒が飛んできた。 「キョン、あんたはどうしてそんなにアホなの? あんたが愚かな行動を起こすたびに引き合いに出される有蹄動物が不憫に思えてきたから、 これからはささやかなリスペクトの意味も兼ねてアホと呼ぶことに決めたわ」 ふふん、と得意げに胸を反らして見せた。 動作と同調して、後頭部から垂れて腰にまで達する馬の尻尾が、ゆらゆらと振幅する。 「ほらな」 「なによ」 「いや、なんだ、うん?」 鮮やかな原色のメガホンに目が行った。 「ああ、これ?」 手元で固定された視線に気づいたらしい。 「落ちてた。野球部に」 「へえ」 そうか、盗んだのか。 「…………」 「…………」 沈黙が流れる。 「さっさと書き直しなさいよ」 せっつかれる。 「え、ダメなのか?」 「愚問」 叩かれた。 「あんた、あたしが前に言ったこと覚えてる?」 「はて」 確か、普通と一味違うただならぬ気配がぷんぷんと漂うサイトにしなすわ~い、だったかな。 「はいっ、やり直す!」 消される。 なんてことを……。 「せっかく一気にただならぬ気配がぷんぷんと漂うサイトになったというのに」 「うんこの臭いしかしないわよ! これじゃあ寄るものも寄ってこないじゃない!」 「それは早計だな。もしかしたら、この“うんこ”という三文字が、とてつもない能力を秘めた人材を惹きつけるキーワードなのかもしれないじゃないか」 「うんこに引き寄せられるアブノーマルな性癖を秘めた人材なんて願い下げよ!」 放課後の文芸部部室にてうんこを連呼する二人。 それを遠巻きから見物している超能力者と未来人、マイウェイを突き進み上製本の薄紙を繰り続ける宇宙人。 日常があった。 § やがて定時となり、解散となった。 「いかん」 明日提出のプリントを机に入れっぱなしだったと気付いたのは、坂の中腹まで来てからだ。 「いかん……」 ものすごく億劫だ。 だがこのまま愚図っていても始まらない。俺は踵を返し、今しがた下ってきた道を登る。 もうずいぶん遅いため、校内に人の姿はまばらだ。 とっとと帰ろう。 教室に足を踏み入れる。 「あら」 人がいた。 それはどこか懐かしいような。 いや、そんなはずはない。 毎日顔をあわせているじゃないか。 「こんばんは」 少女――朝倉涼子は微笑を浮かべた。 「…………」 「忘れ物?」 「…………」 「違った?」 首を傾げる。 「ああ」 なんだろう。 一瞬、動けなかった。 「プリントを取りに」 席を指差す。 「そう」 含みのある笑い方だ。 「帰り道で気付いて」 夕日、教室、朝倉、二人きり。 単語が中空に羅列する。 「明日まで提出だから」 長門、手紙、谷口、再構成。 強烈なフラッシュバック。船酔いにも似た吐き気と頭痛に、立っていられない。 「だから」 右手を、無意識に見た。 「…………」 ……何もない。 当たり前だ。 「大丈夫よ」 朝倉が歩み寄ってくる。言葉の意味は不明。 しゃがみこんだ俺の足は、床に根を張ったように動かない。 「大丈夫、大丈夫」 なにが? その問いに答えるように、すれ違う瞬間、耳元で彼女が囁いた。 「今日は殺さない」 「あ……」 暗転。 § 意識を取り戻すと、私室のベッドの上に横たわっていた。 時刻はすでに深夜。 あの放課後での出来事から、記憶は途絶えている。 朝倉涼子。 思い出した。 思い出したということは、忘れていたということだ。 あんな凶悪すぎるイレギュラーを。 身震いがした。 § 翌日の昼休み、朝倉を屋上に呼び出した。 「告白?」 「馬鹿なことを」 「誤解だってされるわよ、こんな人気のない場所に連れ込んだら」 「しないさ、おまえは」 「涼宮さんよ?」 「…………」 いやな汗が背中を伝った。 「見てるの?」 「ええ、バッチリと」 「…………そうですか」 振り向くことは不可能だった。 「さあ、説明しろ」 俺は恐怖を押し殺し、無理矢理話を進めた。 「どれを?」 「すべてだ」 「うーん、どうしよっかな」 「ふ」 朝倉の体を壁に押し付ける。 背中に注がれる視線の熱量が増した気がしたが、この際気にしないことにする。 「言うこと聞くまで、逃がさないぜ。大人しくしな」 「あなたヤケクソになってない?」 「な っ て ま せ ん」 朝倉は、ひとつ小さく息を吐いた。 「私は昨日、七月八日、あの場所で生まれた」 とつとつと語り始める。 「それは私にとっても計算外の出来事だった。正直驚いたわ」 くるっとターンして、俺に背を向ける格好になる。 「生まれた。人間のように、限りなく受動的に。どうしてだと思う?」 「まさか、ハルヒが望んだからとでもいうのか」 一番可能性がありそうな解だった。 ていうか、それしか考えられない。 理由は知らないが、はた迷惑なことを。 「いいえ」 かぶりを振る。 「あなたが望んだから」 「え?」 豆鉄砲を食らった鳩状態となる。 「俺が?」 「ええ」 現在、俺のステータスは【混乱】だ。 「……そんな、嘘を」 「望んだのよ、それはとても強く」 再度ターン。 「迷子のあなたにヒントをあげる」 俺たちは、一メートルの空気を隔てて対峙する。 「まずあたしの存在、これが一つ目の間違い」 間違い。 嵌まらないジグソーパズルのピース。 それはすなわち異常。 「これはあなたの始めた間違い探し」 コンクリートの地面に、黒いシミが広がり始める。 「その途中で、あなたは失い続ける。 小さかった波紋は次第に広がりを持って、いずれ大切な仲間さえも。 そうやって辿り着いた真実にも、きっと破滅しかない」 彼女は息を継ぎ、俺と視線を接ぐ。 「だからせめて……」 ゲームの開始を告げる合図のように、唐突に。 「大切に、正誤なさい」 雨が降り出した。 2:違和感 教室に戻って席に座るや否や、背中をシャープペンの先端で刺される。 プスプスプスッ。 痛い。 顧みて訴える。 「痛いよ」 「痛くないっ」 えー。 「あのなあ」 抗議すべく、ハルヒをガン見する。 「あれ?」 違和感。 「なに」 「なあ」 「なによ」 「……いや」 ポニーテール。 おまえって、前からそんな髪型だったっけ? 疑問を飲み込み、俺は前に向き直る。 ――正誤なさい。 「…………」 プスプスプスッ。 「……痛い」 昼休みが終わっても、ハルヒの機嫌が好くなることはなかった。 授業・休み時間を問わず、ハルヒに無言でシャープペンで背中を突かれ続けるという荒行を堪えしのぎ、ようやく放課後となる。 やれやれ。 とっとと教室を離脱しようと考えていると、不運は続くもので朝倉と目が合ってしまった。 「バイバイ」 去り際に手を振ってくる。 ブスブスブスッ! いっそう突かれまくるのであった。 § 部室には、古泉と長門がいた。 「あれ、涼宮さんは一緒じゃないんですか」 「撒いてきた」 「はい?」 「いや……」 古泉の正面に腰掛ける。 しばし俺たちはボードゲームに興じる。 「なあ」 「なんです?」 「何か異常はないか」 「異常ですか」 顎に手を当てて考え出す。 「いえ特には。平和なものです」 「そうか」 「おとといの七夕も何事もなく終わりましたし、ずいぶんと気が楽ですよ」 七月七日。 必ずハルヒがとんでもないことをやらかすと肝を冷やしていた日。 しかし、結局何も起こらなかった。 強いてあったことを挙げるなら、自転車がかっぱらわれたことと、ハルヒの思いつきで夜に河畔に繰り出して花火をしたことだろうか。 「ま、ハルヒも成長したということだろう」 「これもあなたのおかげです。……あれ、また僕の負けですか」 古泉、三戦全敗。 驚異的な弱さだった。 「遅いな」 朝比奈さんと他一名。 北高は曲がりなりにも進学校を銘打っている。 受験生である朝比奈さんは、講習が夜にまで及ぶことがあった。 他一名は……あの様子なら帰ったかもしれん。 パタン、と長門が本を閉じる。 「帰るか」 「ええ」 長く座りっぱなしというのは腰にくる。 「あ、そうだ長門。話があるから残ってくれ」 「……」 こくり、と頷いた。 § 古泉を先に帰宅させ、長門と二人きりになる。 「すまんな」 「いい」 「朝倉のことだが」 初っ端から本題に入る。 「呼び出して、少し話したんだ」 「そう」 「間違い探し、なんだそうだ」 「……」 長門は黙っている。 「おまえは当然知ってると思うけど、世界がちょいと違うというか」 歯痒さ。 この世界は歯車が微妙にかみ合っていない。 「……それで」 「うん?」 「どうする気」 値踏みするような口調だ。 「どうするって……んー、そうだな」 朝倉も俺の始めたことだって言ってたしな。 やっぱ、俺がなんとかすべきなのだろう。 「しなくていい」 答えを見透かしたような言葉だった。 「あなたは何もしなくていい」 念を押される。 「えーと」 長門のガラス玉のように無機的な双眸が、俺を射抜く。 「普段どおりでいろと?」 「そう、私がすべて執り行う」 珍しい長門の自己主張。 確かに、そうすることが最善なのだろう。 尊重してやりたい、という私的な気持ちもある。 ……だけど。 だけどなあ。 「いや、俺でやれるところまでやってみるよ」 俺は申し出を断った。 「頼りっぱなしというのも情けないし」 「……」 「本当にマズイ事態になったら、頼るから」 それもそれでかなり情けないが。 「その時はよろしく」 頭を下げた。 「……わかった」 納得、してもらえたのだろうか。 長門の申し出の真意はわからない。 ただ。 あの時の長門は、いつになく必死なように見えた。 3:ナンパ 別の日の放課後。 微笑を貼り付けた谷口が歩み寄って来た。 親指を立てる。 「ナンパしようぜっ」 「しない」 「え」 部室へ。 「ちょ、ちょっと待てよ!」 進路を塞ぐ谷口。 親指を立てる。 「ナンパしようぜっ」 「お前誰だっけ」 「アイアムタニグチィ!」 部室へ。 「ちょ、ちょっと待てよ!」 進路を塞ぐ谷口。 親指を立てる。 「ナンパしようぜっ」 「一足す一は?」 「にー!」 部室へ。 「ちょ、ちょっと待てよ!」 進路を塞ぐ谷口。 親指を立てる。 「ナンパしようぜっ」 「RPGのイベントに出てくるエンドレス選択肢みたいだなお前……」 「ん? 何の話?」 白々しい……。 「どうかしたのかい、キョン」 国木田が興味を示した。 「シャルウィーナンパッ」 飽きがきたのか、メッセージがイングリッシュになった。 「ナンパしたいんだと」 「涼宮さんにバレたら、大変だよ」 「言われんでも、俺はやらない」 「だよねぇ。なのにキョンを誘ったの?」 谷口に問う。 「ああ、実はな」 物憂げな表情になる自称ナンパ王。 「俺さ、気づいちまったんだ」 「気づくな」 「ふぅ……つくづく俺って奴はとことん罪な男だぜ」 「生まれついての痴漢野郎だもんな。この先天性猥褻物陳列罪めが」 「昨日の学校帰りのことだ」 「ここだけの話、谷口くんはイジメられっ子だから正式には保健室の帰りなんだ」 「街で女の子に声かけたんだよ」 「女の子Aは逃げ出した」 「ヘイ、そこのカノジョ、お茶でも飲まない? って」 「女の子Bも逃げ出した」 「そしたらさ」 「女の子Cはイケメン彼氏を呼んでいる」 「お前うるさいな!」 キレた。 「ただの相槌だ。気にするな」 「その相槌が、ことごとく話の腰をバッキバキに折ってるんですけど!?」 口角泡を飛ばす抗議は、いささか不気味だ。 「落ち着けよ、醜い男と書いて谷口」 「普通に谷口と書いて谷口だよ!」 さすがに疲れたらしく、肩で息をしている。 「お前らなあ、俺に不満があるならはっきりと言えよっ」 そんなこと言うもんだから。 「じゃあお言葉に甘えて言わせて貰おう」 「うん、そうだね」 「へ?」 俺はコホンと咳をする。 「ナンパ王? 何がナンパ王だ。難破するばかりじゃねえかこの難破王。無計画にイカダ船に手ぶらで乗り込んで着水式気取ってんじゃねえよ」 「航海するたび後悔してるよね」 「何度失敗重ねれば学習するんだお前は。シャケか。とりあえず帰れればいいやあ、って思ってんのか。いい加減、海図か羅針盤持つこと覚えろやサーモン」 「辞書もね」 「役に立たないだろ、そんな不可能しかない落丁辞書」 「アハハハ」 すでに俺たちの隣に、谷口の姿はない。 「チキショーー!」 奇声を上げて、十メートルほど前方を全力疾走していた。 と思ったら倒れた。曲がり角から出てきた人と交錯したようで、もつれ合っている。 担任の岡部だった。 逃げ出す谷口。 追跡の岡部。 すぐさま御用となる。 世界は平和になった。 § 今日は全員勢ぞろい。 「……」 入室早々、約一名に物凄い形相で睨まれる。 ほとぼりはまだ冷めないようだ。 「はい、どうぞ」 「ああ、すいません」 朝比奈さんから湯気の昇る湯飲みを受け取ろうと手を伸ばす。 ……が、朝比奈さんの背後から腕が伸びてきて、それをかっぱらっていった。 誰かというと、もちろんハルヒなわけで。 ごっきゅごっきゅ。 なんと一気に嚥下していく。 熱くないのだろうか。 「ごちそうさま」 飲み終えると、指定席に帰っていく。 空っぽになった湯飲みだけが残される。 朝比奈さんは引きつった笑みを浮かべている。 俺の心は冷えるばかりだ。 「蒸発しちゃったよ」 古泉は俺に哀れみの目を向けた。 4:ナンパ2 放課後になると、また谷口が歩み寄ってきた。 「ナンパしようぜ」 「お前の学習能力にはつくづく驚かされるな」 「ははっ、そう褒めるなって」 「その返しは発想になかった」 「ほら、行くぞ」 腕を引っ張られる。 「学校の中でするのか……」 「ナンパ初心者のキョンにいきなり街頭デビューはハードルが高いからな」 「だから俺はしない」 「まあまあ、そう言わず一発キメてみろよ。すぐによくなるぜ」 「おまえ後輩にシャブ売りつける上級生みたいだな」 こつこつと近づいてくる足音が聞こえた。 「おっと、誰か来るみたいだ」 物陰に隠れる谷口。 「まずは手始めに、そこの角を曲がってくる女子生徒に声をかけろ。指示は俺が出す」 言って、谷口はおもむろにノートを取り出す。 どうやらそれに文字を書いて台詞を伝えるらしい。 大丈夫なんだろうか……。 ともあれ俺は角を曲がってきた人物に近寄っていく。 「ちょっといいかな」 呼び止める。 「はい?」 始めて見る顔の女子だった。 俺は谷口を見る。 『愛してる』 「…………」 空気が凍った。 「あの?」 「いや、なんでも……人違いでした」 俺は首を傾げる女子の横をすり抜け、谷口の方へとダッシュする。 勢いそのままに蹴りつける。 「もうしないか!」 「しません! しません!」 そんなこんなでテイク2。 「来たぞ」 谷口から合図が送られる。 俺は指定の位置につく。 コツコツコツ……。 足音が迫ってくる。 「あー、もし。そこのあなた」 曲がる人影に声をかける。 「……なによ」 鬱陶しげにシルエットが振り返る。 「うげ……」 「……なにやってんのあんた」 白い目を向けてくる人物。 ……涼宮ハルヒその人だった。 「こんなところで暇つぶし? 部活さぼっていい度胸ね」 試合開始早々に胸倉をつかまれる。 「いや、待て待て。これはだな」 俺は救いを求めて谷口を見やる。 『ナンパしてたんだ』 「ナンパしてたんだ」 思わずそのまま口走った。 「へー……」 フリーズドライされた瞳が俺を睥睨する。 「ち、違うぞ、今のはお茶目なジョークだ。本当はな」 谷口を見る。 『君を待ってたのさ』 「お前を待ってたんだ」 やっとまともそうなのが来た。 「あたしを? 部室で待ってればいいじゃない」 それはもっともなご意見だ。 『大切な話なんだ』 「あー、実は大切な話があってな」 とりあえず指示に従っておく。 「ふーん、なに?」 俺が知りたい。 『今日、親帰ってこないんだ』 「今日な、ウチの親帰ってこないんだよ」 偶然にもこれは本当だった。 そういえば谷口には、昼間に話したような気もする。 「はあ!?」 ガン飛ばされた。 「だからなに!? な、なななななななんだってんのよ!」 胸倉つかまれたまま前後に揺すられる。 俺の家庭事情の一部分を掻い摘んで話しただけで、なんだってコイツはこんなに怒りを露わにしてるんだ。 いかん、酔ってきた。 「あ~……」 正常な思考が保てない。 とりあえず谷口を……。 『俺ん家こいよ』 ………………。 …………。 ……。 § 「…………」 「あの、大丈夫ですか?」 古泉が心配そうに覗き込んでくる。 「うぷっ」 「大丈夫じゃ……なさそうですね」 気が付けば俺は、グロッキーになって机に突っ伏していた。 「あの……」 「なんだ」 「さっきからハンカチを甘噛みした涼宮さんが、あなたに熱のこもった視線を送ってるんですが……何か心当たりありませんか?」 「……そもそもここ一時間の記憶がない」 「それは、災難でしたね」 同情の眼差し。 「相当つらいようですし、家まで肩貸しましょうか?」 「すまん……」 今日は早めに上がらせてもらうことにした。 古泉の肩を借りてよろよろと歩く。 「あの……」 「どうした」 「さっきからリボンを甘噛みした涼宮さんが、あなたに熱のこもった視線を送りながら三メートル後方をぴったりとついて来るんですが……」 「……すまん、俺にも意味がわからん」 「そうですか」 家に着いた。 「悪かったな」 「いえいえ、では僕はこれで」 ぺこりと一礼して古泉は去っていった。 「ふう」 「二人きり……」 「うおっ!」 すぐ背後にハルヒがいた。 「川沿いリバーサイド……」 「おーい」 「これ」 買い物袋を取り出した。 「カレーにするから」 「え、作るの?」 「嬉しいでしょ」 「ああ、まあ」 出前を取る手間と出費が省けるのは嬉しいが。 「肉じゃがが良かった?」 「いや、カレー好きだけど……」 妙に甲斐甲斐しいな。 「おじゃまします」 勝手に上がりこむ。 「あ、ハルにゃんだー」 先に帰宅していたマイシスターがとたとたと駆けてきた。 「…………」 「ハルにゃん?」 「ハルヒ?」 ハルヒの動きがPAUSEボタンを押したときのように微動だにしなくなる。 「誰……」 ぼそっ、と呟く。 「誰よこの女」 「はい?」 耳を疑う。 「やっぱり女を連れ込んでたのね」 「あの、なにがなんだがさっぱりなんだけど」 「しらばっくれないで!」 殴られる。 「OUCH!」 予想の遥か斜め上を行く急展開に、さしもの俺も英国調だ。 「なんでこんな可愛い女の子が、あんたの家に上がりこんでるのよ。説明しなさい!」 「いや、家族だし」 「ていうことはアレ? 一つ屋根の下?」 「そりゃ家族だし」 「いや!」 目を覆った。 はしたない!ということらしい。 そのままトイレに駆け込む。 「ねーハルにゃん、どうしたの?」 「さ、さあ?」 それから二十分ほど待ってみたが、出てくる様子はない。 このまま夜通し立て篭もられてもたまらないので、説得に向かう。 「ハルヒ、入るぞ」 扉を引く。 ハルヒは便器の隣で膝を抱えてうずくまっていた。 「…………」 「ハルヒ?」 おそるおそる声をかける。 「インセスト」 「うん?」 判じかねる。思考を疑問符が埋め尽くした。 「インセスト。つまり近親相姦」 「うん」 一応相槌。 「キョンはインセスト。不潔な不潔なインセスター」 「おいおいおい」 制止すべく手を伸ばす。 ハルヒはひらりと身を翻してこれをかわした。 「攻撃? 攻撃するのね?」 「いや、違うって」 「伏せカードを発動するわ」 「はいっ!?」 「インセスター馬鹿(トラップカード)。世間からずっとドローされ、攻撃され続ける」 なんか補足説明文っぽいの出てきたぞ。 「がぶっ」 「あいたっ」 腕に噛みついてきた。 「帰って、もう帰ってよ……」 「いや、ここ俺ん家だから……」 説得はかれこれ三時間に及んだ。 § カレーを美味しくいただき、満腹となった俺は一足早く自室に戻ってきた。 寝転がると、眠気が去来する。 俺は逆らうことなく、眠りの世界へと旅立つ。 ぐー。 …… ………… ………………ぎしっ。 物音に目が覚める。 「……誰だ?」 視線を発信源に移す。 「……なにやってるんだ、おまえ」 寝巻き姿のハルヒがマクラを抱いて立っていた。 長い沈黙の時間が流れる。 「ぬ……ぬか床」 「???」 意味がわからなかった。 わからなすぎて、逆に何かを悟ってしまいそうだった。 「具合確かめようと思って」 やっと合点がいく。 「あーはいはい、ぬか漬けの」 「うん。キョンの部屋でこっそり漬けさせてもらってたの」 「人ん家でなにしてんだてめぇ」 素でブチ切れる。 安眠を妨害されたことも加え、怒り心頭なのである。 「ぬか……美味しいよ?」 メインぬか単体かよ。 「はあ……」 眠気が勝る。 「用済んだら出てけ」 文字通り目を瞑り、酌量した。 「すぴー……」 俺はすぐさま眠りの世界の舞い戻った。 ……。 …………ドスン。 ……………………。 「うーん」 どうも寝苦しい。 得体の知れない重圧感に、俺は薄目を開ける。 「じー……」 ハルヒが俺の腹に跨り、こちらを凝視していた。 「…………」 悪夢だ。 うわ、やべ、目あわせちまったよ……。 「…………」 するとハルヒは今度は体勢を低くして、コアラのようにしがみついてきた。 「?」 忍んでいるつもりなのだろうか。 「おい」 「…………」 「いや、信じられないくらい呆気なくバレてるから」 頭頂部を小突くと、ハルヒはういーんと上体を起こした。 「あらキョン、偶然ね」 「すげぇ偶然だな……」 どんだけの奇跡を起こせば、ここまでの窮地に陥れるのか。 「そこで何をしている」 「…………」 逡巡。 「……ぬか床の」 「この限局にも程がある状況だと、俺をぬか床としたケースのシミュレーションしか想定できないんだが!?」 あまりに非道で遠まわしな嫌がらせ。 「ち、違うわ。あのね」 あたふたとハルヒ。 「うん?」 「ぬかを」 「ふむふむ」 「……枕の下に」 「!?」 跳ね起きる。 「仕込んだのか?」 もし本当なら、翌朝気づかずにのこのこと登校したが最後……。 じゃんじゃんじゃんじゃじゃじゃーん。 イマジン(想像してごらん)。 谷口にあれキョンお前なんか臭くないかとか言われたのを発端に国木田にもキョン今日は一味違うね主に体臭の方向性がとかなんとかで担任の岡部に誰だあ教室でぬか漬けてる奴はって言われて女子にクスクス笑われて晒し者になってるよ。 ユーーーーー(俺)! さらば青き日々よ。 きっとその日から、糠田キョン子なる忌々しきニックネームが人生の汚点ワーストワンとしての市民権を獲得し、確固たる地位と財力を築き上げるんだ。 過酷すぎる未来予想図に絶望した俺はさめざめと泣き出す。 「ジョークよ……ジョーク。そう、スパニッシュあたり出典のやつ」 適当に茶を濁すハルヒであった。 「さあ、明日も早いわ。早く寝ましょ」 極めてナチュラルな動きで俺の布団へと潜りこんでくる。 「ハルヒ」 「おやすみ」 三秒ですこやかな寝息が聞こえてくる。 「ハルヒ!」 「すーすー……」 「…………神よ」 その神は隣で寝ていた。 夜は更けていく。 5:約束 翌朝は極度の寝不足である。 抵抗率百パーセントな体を無理矢理ベッドから引き剥がし、だるさを堪えて登校する。 「しゃきしゃき歩く」 背中を押され坂を登る。 「てか、おまえ外泊するって家に連絡したのか」 「してない」 「冷静に考えたらヤバくないか、それ」 「ヤクいわね」 「いや、ヤクくないし意味ぜんぜん違ぇから」 「大丈夫よ」 しれっと言い切ってみせる。 だらだらと歩いているうちに学校に到着。 教室に入ると、谷口が不自然ににやけていたので、鞄を置くと廊下に舞い戻った。 今日一日は近づかないのが吉だろう。 廊下をあてもなくぶらつく。 すると古泉に遭遇した。 「おはようございます。眠そうですね」 「いろいろあってな」 眠気覚ましに、少し立ち話でもしたい気分だった。 「どうだ、最近は」 「相変わらず暇なものですよ、どうしてですか?」 「昨日か一昨日に、異変はなかったか」 「異変ですか」 「閉鎖空間」 俺の言葉に、場には見えない緊張の糸が張り巡らされた。 「どうなんだ?」 「……いえ、閉鎖空間も例の神人も、発生してません」 「そんなはずはないだろう」 古泉の微笑が歪む。 「根拠が?」 「理屈が合わないんだよ」 「なんのでしょう」 「あの空間は、ハルヒの精神状態が不安定になると発生するんだろ」 「ええ」 「三日前に、俺が女子を屋上に呼び出したところを見られてるんだ」 古泉の糸目がかすかに見開かれる。 「自惚れじゃないよ」 「……そうですね」 賛同を示す頷き。 「人の好意に、鋭くなられました」 成長した我が子を慈しむような声色だ。 俺はもう一歩踏み込んで質問を投げかける。 「なあ……おまえ、俺になにを隠してる?」 「…………」 少しの静謐な時間。 喧騒が遠い。 「約束をしました」 少年は長い時間をかけて、一言を発した。 「侵略する者は」 始業のチャイムが鳴った。 「潰します」 § この日、古泉は部室に顔を見せなかった。 「なんか、バイトが忙しいから少しの間休ませて欲しいって」 ハルヒが伝言を承っていた。 「みくるちゃんも講習みたいだし……あーもう! まったく」 ここ最近の参加率の低さに、ハルヒは頭を抱え深々とため息をついた。 しばらくは今いる三人だけの集まりになりそうだ。 「うーむ」 ゲームも対戦相手がいないと退屈なだけだった。 § 水曜日。 授業中、窓の外に見知った背中を見かけた。 そいつは旧校舎へと歩いていく。 休み時間になると、俺も旧校舎に向かった。 すぐに目的の人物は見つかる。 そいつは文芸部部室の前で突っ立っていた。 「入らないのか?」 古泉は驚いた様子もなく俺を見た。 「あれ、どうしたんです? こんなところで」 「それはこっちの台詞だ。二日もサボりやがって」 「ついさっきまで忙しかったんですが、唐突に暇になりまして」 「そっか」 「はい」 古泉はもう一度、部室をしげしげと眺め始める。 「提案なんですが」 「なんだ」 「遊んでくれませんか」 § 部室には誰もいなかった。 長門も、さすがに学校にいる間中ここにいるというわけではないようだ。 「オセロでいいか」 「ええ、どれでもけっこうです」 パチパチと石を打ち始める。 白と黒。 二色の世界を外へ外へと広げていく陣取りゲーム。 戦争において、肝心なのは手駒の量ではなく管理者の質である。 兵器の差が戦力の決定的な差ではない、と某少佐もおっしゃっている。 土地、天候、兵力の振り分け。 最適な演算処理が求められる。 優れた統率者が指揮を執る軍が勝利を手中に収めるのだ。 「ふむ……」 古泉が唸る。 力の差は歴然で、俺の圧倒的優勢となる。 どう見ても逆転の余地は無い。 「お聞きしたいのですが」 「なんだ?」 「この大差、誰もが僕の負けだと確信する局面で……もしも、ですよ。この差をも埋めてしまう逆転の一手があるとしたら、あなたならどうします?」 「あん?」 古泉の意図がわからない。 「おまえ、そんなの……」 俺はその後の言葉を発する前に、口を閉じた。 無理。 現実逃避だ。 ありえない。 そんな手は存在しない。 きっとそういう風に答えていただろう。 堂々巡りするかつての俺を、俺は斜め上から眺めていた。 いつかの自分より、少しだけレベルアップした自分で。 「俺なら……」 馬鹿なことと知りながらも、真剣に立ち向かう。 それは凄いことだと思った。 「その手に見合った、最高の石で打ってやるんじゃないかな」 だから俺はそう答えていた。 古泉はその答えに満足したように立ち上がる。 「すみません、もう時間です。続きはまたいつか」 足早に部室をあとにする後姿は、妙に清々しく見えた。 § それから三日後の七月十八日。 古泉の訃報が届いた。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5276.html
高校卒業から10年程が経過した、最近高校時代の夢を良く見る、ひょっとしたら今も夢を見ているのかもしれない 今の俺はただ生きている、無意味な時間を過ごし、一人寂しく生きている 高校時代の友人とはもう連絡を取っていないしあいつに集められた3人ももういない 10年前の情報爆発が原因で皆散り散りになった ニヤケ面したやつ、名前なんだったっけ? そいつはわけのわからない組織と共に行方をくらませた マイエンジェルなどと呼んでいたあの人は、自分の時代へ 本が好きだったあいつは、親元へ還っちまった そもそもの原因はあいつとくだらない事で喧嘩しちまったことだ それは今でも後悔している、あの時の俺はどうかしていたんだ もしも戻れるならあの頃に戻りたいものだ そう考えながら、俺は急激な眠気に襲われ眠りについた 『今回も前回と同じ思考に陥ってくれてるようだね さぁ君の願い叶えてあげよう、あの頃に戻してあげるよ でもその前に少しの間眠ってもらうよ 再び始めよう、無限に続く世界を!! 今回も主人公はジョン・スミス…君だ そして、ヒロインは……』 またこの夢か……。そういえばあいつとの喧嘩、本当にくだらないことだったのか? そうだ、その喧嘩はいつもより酷かったような……、喧嘩した理由なんだっけ? 思い出せないなんでだ、そもそもここはどこだ? それに今はいつだ?細かいことを何も思い出せないどうなってるんだ…… 『おい人間』 そうだ、こんな時は!……誰だったっけ?確かこんな時誰か頼りにしていた奴がいたはずだ 『人間!聞こえていないのか人間!!』 うるさい!俺は今考え事しているんだ!!黙ってろ と言おうとして振り向いたのはいいが誰もいない その代わり一冊の本があった 『ようやく気付いたな人間』 本から声が聞こえる……まさか、ありえるわけ……いやこんなことをしでかすやつを一人知っている 知っているが思い出せない、やれやれ俺はどうしてしまったのかね 『良く聞け人間、汝は邪神により汝自身の未来を閉ざされている 妾はその邪神を追ってここにきた、そして今汝の精神に語りかけておる』 邪神?なんのこった、わけわからんことを並べ立てやがって イライラしていたそのときだ、銀色の髪と黒い瞳をした少女がそこに立っていた 『……あなたは誰?彼に危害を加えるのなら、あなたを敵性と判断し、情報連結を解除する』 今度は誰だ?わからない、でも懐かしい感じがする 『ほう奴らの人形か、暫く見ないと思っていたらこの星に来ていたのか まぁよい二人とも良く聞け 邪神が汝等の運命に介入し汝等の未来を狂わせている もしも汝が邪神と向き合い、戦う意志を持ったならば聖句を唱えよ! 聖句は今汝の心に刻み込んだ、この聖句が妾と妾の伴侶に聞こえた時必ず汝の力となることを約束する 人形、こやつをそれまで守ってやってくれ。こやつの精神は見ての通りくたびれておる こやつはこの10年間を何億と言う回数を繰り返しておる、普通の人間なら発狂してもおかしくない状態だ 妾たちがそちらの世界にいけるようになるまで頼んだぞ』 『……了解した』 あぁもう何がなんだかわからん、誰か説明してくれ 何で俺はここにいる、お前らは誰だ? 『落ち着け人間、そのうちわかる だが勇気を忘れるな!!』 勇気とか何だよ、俺に何をさせようってんだ! 『汝は何もしなくていい、ただ戦う意志を強く持て、それだけでいい』 何と戦えって言うんだ! 『ナ■■■■■■■■■、検閲かふむ……まぁいい、何度も言うが戦う意志を強く持て。また会おう人間!』 ちょっと待て!! 『あなた達は私が守る』 お前もだ、誰なんだお前は! 『……直ぐに思い出す……また図書館に……』 図書館?何のことだ、おい待ってくれ! 「……ョン!キョン!」 「ぅん……」 「ちょっとキョン!!」 「涼宮さん、彼も疲れているのですよ、もう少し寝かせて差し上げてはいかがですか?」 「仕方ないわね……、キョンも起きないし、今日はもう解散!あたしはキョンが起きるまで待つから皆は帰っていいわ」 「わかりましたではまた」 「それじゃ私着替えますね」 「……また明日……朝比奈みくるボソボソ」 「長門さん?わかりました」 「……コク」 「長門さん、僕も行ったほうが良いですか?」 「……コク……ただし彼と涼宮ハルヒには内密に」 -古泉サイド- さて、長門さんが僕たちだけを呼び出すなんて何事でしょうか 本来は彼の視点で勧めるべきところですが、彼はまだ就寝中です 午後6時僕と朝比奈さんはここ、長門さん宅に来て用件を聞いています 「本日午後3時21分48秒に彼の精神に二つの存在を確認 うち一つは午後3時34分6秒に情報連結を解除、正体は不明 残る一つは午後4時32分28秒に接触、何ものかの意思であると確認 情報統合思念体とも天蓋領域とも違う存在、但し有機生命体で言う女性に該当することが判明 彼女は私に言った 彼はこの10年邪神の力でループしている、回数は不明但し億を越えている 邪神が涼宮ハルヒの力を使い、運命の輪に閉じ込めている ループの記憶は消されているものの、彼の深層意識と精神は疲弊しきっている このまま行けば彼は自らの命を断つ可能性が高い 邪神の目的は恐らく彼の死を原因とする涼宮ハルヒの負の情報爆発 現在情報統合思念体に邪神の正体を問い合わせ中 情報統合思念体は未来人・超能力者と協力し彼の保全を最優先することを決めた あなたたちにも指示が行くと思う、しかし私という固体はあなたたちに友人として協力 を要請したいと思っている」 邪神ですか、それは神人とはまったくの別物なのですか? 「神人は涼宮ハルヒが生み出したエネルギー生命体、邪神は起源も規模も不明 今情報統合思念体から連絡があった、邪神の名は…エラー言語化できない、なぜ? 起源……エラー……規模……エラー……目的……エラー 機能検索……何者かが私に検閲プログラムを導入、解除不能 邪神に関する全てにプロテクトがかかっている、情報統合思念体に解除要請…… エラー、情報統合思念体にアクセスできない ただし、情報操作・私と言う固体の能力について制限は無い」 どういうことでしょう、邪神に関する項目のみに検閲、さらに情報統合思念体とアクセスができない となると、僕たちは推測に推測を重ね今後の対策を練らなければならないようですね 「い、今未来から私に指示が来ました。TFEI端末・超能力者と協力しキョンくんを死なせないようにという事です 長門さんと同じ、邪神については禁則がかかっています…… TPDDに制限がかかって、空間移動はできますが時間移動ができません…… あっ、ふえぇぇ、未来との通信もできなくなりましたぁ!」 困ったことになりましたね、まず整理しましょう 長門さんが得た情報、女性と思われる方によると 邪神が涼宮さんに情報爆発を起こさせ何かをさせようとしていること それと末端の僕たちを孤立させようとしていること、機関は大丈夫でしょうか 念のため確認してみましょうか もしもし、古泉です。はい……はい……わかりました どうやら機関とも連絡が取れなくなりました、本当に孤立させることが目的のようですね ではこうしましょう、これから毎日団活後長門さん宅に集合 各エージェントと情報交換し、情報をまとめましょう それでいいですか? 「……構わない、彼と涼宮ハルヒは私と言う固体にとって大切な人、危害を加えるものは 全て敵性と判断」 「わかりました、私もこの時間平面にいる駐在員と連携して情報を集めます!」 では今日の所は解散という事で -キョンサイド- うぅん…… 「あっ、やっと起きた、さぁ帰るわよ!」 ハル…ヒ?あれ? 「あんた泣いてるの?」 言われて気付いた、何で俺泣いてんだ? すまんハルヒ! そう言って俺はハルヒを抱きしめた 「ちょ、ちょっとキョン!……もう……」 すまん、しばらくこうさせてくれ どれくらい、そうしていたのかわからなかった それから俺はぽつぽつと語りだした なぁハルヒ、もし俺がいなくなったらどうする? 「そうねぇ、世界の果て、違うわね……そう宇宙の果てまでおっかけて連れ戻すわ あんたはSOS団の団員その1で雑用係だからね」 じゃあもし俺が死んだらどうする? 「バカなこと言わないで、今度そんなこと言ったら死刑!」 おい、それじゃ死ねと言ってるようなもんじゃないか 「そうよ、あんたはあたしの……なんでもない……」 そうかい、やれやれだな 「ところでキョン、そろそろ放してくれない?」 良く見たらハルヒは顔を真っ赤にして口を尖らせていた あぁすまん 「さっき寝ながら泣いてたけど、どんな夢見てたの?」 さぁな、よくは憶えてない、けど大切なもの全部無くして絶望に明け暮れていたような なんというかだな、そんな感じの夢だ それでなんだったかな、もう一度やり直したいって考えてたら 声が聞こえて、その後は憶えてないなぁ 「ふぅん」 最近良く見るんだよな、この夢 「何かの暗示かもね、あたしでよかったらいつでも相談に乗るわよ あっ、勘違いしないでよ、あたしは団長なんだから団員のメンタル面も把握する必要が あるだけだから!」 へいへい頼りにさせてもらいますよ、団長さん じゃあ、早速だが聞いてくれハルヒ 何でこんな事を思ったんだろう、俺は目の前にいるハルヒが無性に愛しく思えた いや、以前からわかっていたはずだ、ハルヒの気持ちも、俺自身の気持ちも この1年半という時間でどれだけ俺はハルヒと二人きりになれたのだろう よくこいつにはドキっとさせられることもあったっけ 文化祭の後なんかもそうだ、勝手にこれってデートか?と勘違いして古泉たちが来て落胆したっけ 今思えばこいつと二人きりで、こうやって話した時間って少なかったんじゃないか? でも今はこいつと、ハルヒと二人きりでいたい、いやもっと二人の時間が欲しい 俺らしくないが、こんな事考えてたら理性が欲に変わっちまった ハルヒが欲しいという欲にな だからこの日、俺はハルヒに自分の想いを全てぶつけた 「遅いのよ……バカ……あたしだって、あんたの事好きなんだから……」 こうして俺たちは彼氏彼女という関係になった まぁ周りからはやっとかと言う反応しか返ってこなかったがな 文芸部室に行くと、いつの間に準備されていたのか、俺とハルヒを祝福する会が開かれた ハルヒはというと、顔を真っ赤にしてそっぽ向いちまった 俺は俺で、気色悪いニヤケ面120%増で顔が近い古泉を適当にあしらいつつ、 笑顔120%増の朝比奈さんのお茶を啜る、長門はいつもと比べ少し笑顔な気がする 他にも鶴谷さん、国木田もこの会に出席してくれた 谷口もいたような気がするが気のせいとということにしておこう そしてメインの鍋パーティーだ、これもお馴染みになってきたな ん?今が何時かだって?2年の11月の始めだ そしてどっから情報を得たのか、俺とハルヒが付き合いだして二日後、新聞部の校内新聞号外により俺たちのことが報じられた ハルヒよこれもお前の無意識の仕業なのか? さらに弁当を忘れてきた俺は、仕方なく学食で飯を食うことにした、もちろんハルヒと一緒にな でここでも事件だ、新聞部に見つかっちまった…… 馴れ初めだとか、どっちが告白しただとか、根掘り葉掘り聞かれた ハルヒは紅茶をこぼすし、大変だったよこの日の昼飯はな この学校でハルヒを知らないものはまずいないほど有名だからな 全校生徒の興味を引いたんだろうさ 男子生徒の目が痛かった気もするが俺は気にしない さらに週明け、バカップルの日常と称して校内新聞に俺たちの記事が掲載された はぁ……まったくやれやれだ ん?週末は何をしたのかって?SOS団で不思議探索だ 勘違いするな、班分けでデートなどしていない この日班分けで当たったのは午前は古泉と午後は長門と朝比奈さんだ、ハルヒとは当たらなかった 何?もう一日はどうしたのかって?それは聞くな、いや聞かないでくれ頼むから…… ハルヒとのこんな日常がずっと続くんだなと、このとき何の疑いも持たなかった -古泉サイド- さて、彼には悪いですがここでまた僕にバトンタッチです 長門さんに呼ばれた次の日、僕は森さん、新川さんと会い情報交換をしました 現在のところ目新しい情報はありませんでしたが 機関との連絡は森さんを経由と、今まで通り動けという命令を受けました つまり、SOS団のメンバーと協力しろということでしょう 他の方たちは新しい情報は……現状ではあまり期待できませんね この日は至って平和でした、団活終了後長門さん宅に集合し現状報告・情報交換をしました 朝比奈さんは、未来との連絡も取れず時間移動不可の状態、駐在員のお偉方に禁則解除してもらおうとしましたが、ダメだったそうです なにせそのお偉方も同じ禁則を受けていたからです 長門さんも他のTFEI端末と接触したそうですが、全員同じ状況でした 全員と必要な情報を共有したそうで、何かわかったらすぐに僕たちに連絡するとのことです しかし驚きました、あの日僕たちが帰った後、彼と涼宮さんがお互いの想いを伝え合っていたとは これで僕のアルバイトも減るというものです なんにせよおめでとうございます、あなたたちの幸せは僕たちが守って差し上げますよ 「顔が近いんだよお前は!!」 んっふ、そんなに照れなくてもいいじゃないですかキョンさん 僕はただ祝福したいだけですよ、この話を聞いてすぐに準備しましたよ 彼と涼宮さんには指定時刻まで部室には来ないようにしていただき その間に彼の友人二人と鶴谷さんをお呼びし盛大に祝福させていただきました 涼宮さんは団長机で顔を真っ赤にしてましたね、キョンさんはいつもより少しニヤケてましたよ そして週末の団活ですが、午前中は彼と一緒になりました そこで彼にこんな相談をされました 毎日が既視感の連続であること、既視感の強さにより眠れない日があること 変な夢を良く見ること、内容までは覚えていないそうです なるほど、深層意識下にある彼の記憶ですね。これが彼のストレスとなって…… 僕はこう彼にアドバイスしました、あまり気にせずゆっくり休んだ方が良いと 午後の班分けで長門さんと一緒になる場合、僕からそのことを話しておく事を伝えました 結局、午後は僕と涼宮さんの組み合わせになりましたがね 団活終了後はもちろん集合しました この件を長門さんに伝え、今後どうするかを決めました 彼は彼で、朝比奈さんに心配をかけたくなかったのでしょう。 長門さんには相談しなかったようです なるべく彼にループしていることを悟られないようにすることで、一致しその日は解散となりました しかし週明けのあの校内新聞思い出しただけでも笑ってしまいます 馴れ初めや告白、イロイロ書かれていました 見事なほどバカップルでしたね、こんな彼らを守るそう決めた僕たちはこの後目立った情報も無く 邪神と呼ばれる謎の敵も動きを見せませんでした それから約1年が経過しました 2ヶ月ほど前からでしょうか、いえ夏休みの終わりごろからですね、彼の様子がおかしくなり始めたのは 自傷行為を起こすことが増え、精神的にも不安定になっていったのです 恐らく、以前話していた既視感が原因でしょう このままでは危険と思った僕は、彼を長門さん宅へ連れて行くことにしました 誘拐と言っても過言ではないくらいの勢いでね、もちろんご家族の了承は得ています ここで彼に全てを話しました、僕たちの置かれている状況、あなたが何度もこの10年間をループしていること 話し終えた後彼は少しずつ落ち着きを取り戻していました ただ、何故もっと早く教えてくれなかったんだと思っていることでしょう 落ち着きを取り戻した彼は、僕たちにもう自傷行為はしないと約束してくれました それなら涼宮さんに連絡をし、そう言ってあげて欲しいとお願いしました ですが彼は、今自分は涼宮さんに合わせる顔もかけるべき言葉もないと拒否しました この日の夜彼と涼宮さんがこの世界から消えました、正確には閉鎖空間へとシフトしてしまったのです 無事彼と涼宮さんは閉鎖空間から帰還しましたが、その後彼らは別れてしまった とこれはループの話しです さてそろそろ彼に語ってもらいましょうか、彼がどんな選択をし、どんな未来を勝ち取るのか -キョンサイド- 俺は今夢を見ている、それも毎晩毎晩同じ夢を、内容はこうだ 男のような女のような、それでいて全身黒いオーラのようなものを纏った奴に俺は追われている どこまでもどこまでも逃げる、逃げ続けた だがそいつは、俺がどれだけ逃げようと、気が付けば正面に立っている 追い詰められた俺は、こいつに腕を引きちぎられ、足を押しつぶされ 最後ははらわたを抉られ、頭を潰され、元の状態に戻されまた俺は逃げる これを何十回何百回と繰り返す事になる 最後は俺を襲う奴とは違う何かが目の前に現れ、光に包まれ目が覚める これが春先から見る俺の悪夢だ ハルヒと付き合いだして約1年が経過し、俺たちは3年に進級した 朝比奈さんは卒業後近くの私大に入学した、やはりハルヒ監視の任務がまだ続いているのだろう 3年になってからと言うもの俺は毎晩悪夢にうなされている さらに既視感も1年前と比べ日を追うごとに強烈になっていく 夏休みが終わり二学期の1週目から俺は学校に行かなくなった 夏休みの終わる頃には、もうこの悪夢と既視感に耐えられなくなり、寝ることさえ辛くなっていた そんな中2ヶ月が経過し11月になった、本来なら大学の受験勉強をしなければならない大事な時期だ SOS団のみんなはよくしてくれる、特にハルヒは毎日来てくれる 始めこそハルヒのノートを写すなどで勉強はしていたが、だんだんそれも億劫になっていく そしてこの2週間生きる気力を失い始めた俺は自傷行為を始めた そう自殺するためだ、未練はある、それでも現状から逃げ出せるのなら 行動に移そうとした時に限ってハルヒ達が俺の部屋に来た 「キョン!」 「何をやっているんですあなたは!!」 「キョンくん、ダメですよぉ!」 「長門さん、僕が押さえている間にナイフを取り上げてください!」 「……了解した……」 放せ古泉!頼む、頼むよ逝かせてくれ!! 渇いた音が響いた、俺の頬がじわじわと熱くなる 俺に平手打ちをした張本人であるハルヒが泣いている 「バカ!何やってんの! またあたしに、独りでいろって言うの! そりゃ、今は有希もみくるちゃんも古泉君もいるわ でもそれはキョン、あんたがいたからじゃない! あんたがいたから大切な友達を作れたの! だからあんたがいなきゃ、意味無いんだから!! ねぇ、あたしを……独りにしないでよ……キョン……」 そういうとハルヒは俺の部屋から出て行った ……ハルヒ…… 「キョンくん、涼宮さんを追いかけてください!」 朝比奈さん、今の俺にそんな資格ありませんよ 渇いた音が響き再び俺の頬が熱くなる、今度は朝比奈さんに叩かれたようだ 「私今のようなあなたを見たくないです! 涼宮さんを追いかけてください!」 …… 「どうして黙っているんです!どうして動いてくれないんです! どうしたら涼宮さんを追いかけてくれるんですか?」 ……朝比奈さんまで泣かないでください、今の俺には…… 「追いかけてください! 私の好きなキョンくんは、そんな意気地なしじゃないはずです 私の一番大好きな人は、こんな弱虫じゃない!!」 ……すみません朝比奈さん……でも俺は…… 「うぅ…ばかぁ!!」 朝比奈さんも俺の部屋から出て行ってしまった その直後電話が鳴り出した、どうやら古泉の電話のようだ 閉鎖空間か……すまん古泉…… 「はい古泉です、わかりました。 キョンさん、僕は少なからずあなたという人に嫉妬を覚えていました ですがそれも勘違いだったようです、失礼ですが僕はあなたを見損ないましたよ しかしそれでも、それでも僕はあなたが立ち直ってくれる事を信じています またあなたとオセロができることを、楽しみにしています。それでは」 古泉もいっちまったか… 長門すまん、一人にしてくれないか…… 「……落ち着いたら私の部屋に来て……話したいことがある キョン……生きて、ハルヒのためにも、あなた自身のためにも」 ……みんなすまん…… -ハルヒサイド- キョン……あんたどうしちゃったのよ 死ぬだなんて考えないでよ、あたしを独りにしないで もう独りはいやだよ、お願いだから生きて 気が付いたら公園にいた、公園のブランコであたしは泣き続けていた どれくらい時間が経ったのかわからないけど、あたりは暗くなっていた 誰かが近づいてくる、キョンなのかな…… そんな淡い期待は顔をあげた瞬間に裏切られた、けど嬉しかった、反面そこにキョンがいなかったことが悲しかった 有希、みくるちゃん、古泉君があたしを探してこの公園に来てくれた みくるちゃんも泣いていたのかな、目が赤いよ 「涼宮さん、キョンくんきっと立ち直ってくれます だから、キョンくんを支えてあげてください」 「僕からもお願いします、今の彼を支えられるのはあなただけです」 「……私からもお願いする」 私じゃ力になってあげられない、いつからこんな弱くなったのかな 「いいえ涼宮さん、あなただからこそ彼の力になってあげられるのです 僕たちでは、彼の心の奥底にある何かに触れることができません」 「そうなんです、私たちじゃ涼宮さんほどの力になってあげられません」 ダメよ、こんな弱い私じゃキョンの力になれない 渇いた音がして私の頬が熱くなった え? 「なんで、なんでキョンくんも涼宮さんもお互いを避けるんですか? 私の知ってる二人はとても優しくて、どんな困難も乗り越えられる強さも持ってるじゃないですか」 「そうです、あなたの彼の前でだけ見せるあの笑顔があれば、きっと彼も生きる気力を取り戻してくれるはずです」 「それは私たちにはできない、あなたの笑顔こそ彼の心の奥底にある恐怖を払う力になるはず、私はそう信じる」 「そうですよぅ、今のキョンくんも涼宮さんもお互いを必要としてるのに、逃げちゃだめです!」 うぅ……ごめん、ごめんねみんな。 そうよね、あたしがしっかりしなきゃ、あいつはもっと苦しいんだよね あたしと付き合いだしてから、ずっと変な感覚に苦しんできたんだもんね 悪夢もずっと見続けて、独り苦しんでるあいつを支えてあげなきゃ! そう決意できた時、あたしはまた泣いた、泣き続けた、涙が枯れるんじゃないかってくらいに そんなあたしを受け止めてくれた、ありがとうあたしの大切な友達 あたしもあいつと一緒に、あいつの苦しみと戦うんだ! だからあいつが元気になるまであたしは眠らない あたしをこれだけ悩ませたんだから、元気になったら罰金だからね! -キョンサイド- それから2週間こんな俺をハルヒは励ましてくれる、しかしどうにも生きる気力が沸かない ハルヒもまた眠っていないらしい、目の下にくまが出来ている バカ野郎…俺なんかのために綺麗な顔にくま作ってんじゃねぇよ…… 結局この2週間で俺が取った行動は、自傷行為を続けハルヒに叩かれる毎日を送ることだった 全部未遂に終わったがな、これもハルヒの俺に生きて欲しいという想いが起したのだろう 長門に話しがあるから部屋に来いと言われていたが、とてもそんな気分にはなれなかった 次の日の朝、古泉が所属する機関に俺は無理矢理連れ出された ほとんど誘拐だったな、親と妹には話をしていたらしく、何も言わなかった 着いた先は長門の家だ、マンションの入り口で長門、朝比奈さん、古泉が待っていた そこで俺は全てを聞かされた、俺の既視感の原因、そして俺だけが去年からの10年間ループしているのだという もっと早く教えて欲しかった、だが知ったところでどうしようもなかったのも事実だ このことを知れただけでも気が楽になり、自傷行為はやめることを約束した だがハルヒには合わす顔もなければかけてやる言葉も無いと、ハルヒへの連絡はしなかった 家に帰され久しぶりに寝れそうだと思い布団に入った 気が付くと閉鎖空間だ……、俺が原因で発生した閉鎖空間…… 北高か…… そう呟いた時赤い球が俺に近づいてきた、古泉だ 「やぁ、少しは眠れましたか?」 多分な 「既にお気づきの通り、ここは閉鎖空間です。2年前のあの空間と同じタイプのね」 そうかい 「僕たちからの応援の言葉です、邪神に負けないで自身を強くもってください、あなたなら必ず未来を勝ち取れます」 …… 「おっと時間のようです、あなたが未来を勝ち取りこちらの世界に回帰することを祈っていますよ」 …… 古泉が消えた、俺はどうすりゃいい…… しかたない……部室に行ってみるか ドアをノックする返事が無いがまぁいい開けよう 「キョン!」 ハルヒ……すまん……心配掛けた 「バカ!あたしがどれだけ心配したと思ってんのよ!バカバカバカバカバカ!」 ホント……すまん…… そういってハルヒを抱きしめてやろうと思った その時今までに無い強烈な既視感に襲われた 『そいつは本物じゃない、本物は後ろにいる 後ろだ後ろにいる者こそ本物だ!』 何かが俺に語りかけてきた、男の声だ、だが聞き覚えが無い それでも目の前のハルヒを受け入れてはいけない、そう思い後ろを見た 確かにハルヒがいた 「キョン!遅い!あたしを心配させておいてただじゃ済まないわ! そっちの奴を選んだら死刑だからね!!」 ハルヒが二人……さっきの声を信じるならこっちが本物か しかし……そういえば目の前のハルヒはくまが無い 後ろのハルヒにはくまがある、それにさっきまで泣いてたんだろう目が腫れてる…… それに後ろのハルヒには100万Wの笑顔があるじゃないか!! それと比べて目の前のこいつはなんだ、何をニヤニヤしてやがる気持ち悪い、100W、いや1Wのかけらもないただのニヤケ面だ そうだ、迷うこと無い後ろのハルヒこそ本物だ! なら目の前のこいつに言うべきことは一つ お前は誰だ? 「おや、とうとうばれてしまったようだね、さすが人間だ いつもの事だけど、人間の絆ってやつには驚かされるよ」 男と女が入り混じったような声でそういうと目の前のハルヒは、いや目の前の化け物は正体を現した 漆黒の化け物?そうかこいつが古泉が言ってた邪神か、なんでだろうな足がすくんで動けない 「その通り、さて邪魔が入ったし。まずは後ろの小娘から殺そうかな」 そうだこいつだ、俺の夢に出てきては俺を何度も何度も生かさず殺さずを繰り返してくれた奴は! 頼む、動いてくれ俺の足!! くそ動かない、ならせめてハルヒ伝えるんだ、あいつらがこの閉鎖空間に入ってこれるように祈ってくれと ハルヒ!! ハルヒ良く聞け、長門、朝比奈さん、古泉をこの世界にも来るよう考えてくれ 「え?キョン?どういうこと?」 SOS団が揃えば何だってできる!そうだろ? それが夢の世界ならなおさらだ! 「うん、わかった!(有希、みくるちゃん、古泉君来て!!)」 やばいハルヒ!!ぐ…あっ…、動けたと思ったらこれかよ…… 「おっと間違えた、小娘を殺すつもりが君を傷つけてしまったよ」 「キョン!」 ハルヒ俺の事はいい、今はあいつらをこの世界に呼ぶんだ!! 「でも!」 あいつらが来るまで俺は耐えてみせる!だからあいつらが来るよう祈ってくれ!! ハルヒ!!! 「……(みんな早く!!)」 「さて次は、肩を壊してやろうかね。やはり人間の悲鳴はいい、肩の次は背中を破壊してあげよう」 くそっ!まだかよ、このままじゃさすがに持たんぞ…… 「ふふふ、背中を潰すのは後にして足を破壊してあげるよ人間!!」 があああああああああああああ!! ここで俺は倒れちまったみたいだハルヒが泣きながら俺を抱きしめてくれてる ハルヒ…… 「キョン!キョン!!」 ハルヒ聞いてくれ、俺さバカだからお前を悲しませてばっかだったな 「ばか、いいわよ今はそんなこと!」 強く祈ってくれあいつらがここに来ることを!! 「うん、うん」 「さぁって次は内臓を抉ってあげよう どうだい、夢と同じ事をされる気分は まぁ本当なら腕を引きちぎってるところだけど、優しい僕は後にしてあげることにしたよ」 そうか、お前か俺にあの悪夢を見せたのは! 「そうさ、君の悲鳴は何度聞いてもいいものだ、これからがお楽しみだ!」 「ふんもっふ!」 ははっ、ホントにきやがったこれで俺たちの勝ちだ! 「すみません、遅くなりました」 「ふえぇぇぇ、キョンくん大丈夫ですか、涼宮さんも!」 「……私が彼の治療をするその間邪神を」 「みんな、本当に来てくれた、キョンの言った通りに、ありがとみんな!」 「さぁ一度退避しましょう」 「おや、逃げるのかい?まぁいいだろう、じゃあ12時間猶予をあげようその間に態勢を整えるといい 僕は高みの見物をさせてもらうよ」 保健室に逃げた俺は長門に治療してもらい、そのまま寝ちまったらしい それで変な夢を見た 「人間、おい人間!!」 またこの夢か…、どうせまた本が喋っているのだろう 「その通りだ人間、どうやら妾のこと憶えていたようだな どうだ汝はあの邪神と戦えるか?」 さぁな、さっきはハルヒを守るって一心でやっと動けたからな 本音言うと逃げたしたいよ…・・・ 「それは仕方ない、普通の人間であれば彼奴の瘴気で全員発狂してもおかしくない これも一重にあの小娘のおかげだろう」 なぁ俺はどうすればいい? 「それは汝が決めることだ、戦う意志があれば必ず勝てるとだけ言っておこう」 そうかい、まったくどいつもこいつも、俺には秘密主義なんだな 「そういうな人間、そうだ以前汝に刻んだ聖句、憶えているか?」 聖句?なんだそれ 「やはり憶えておらんか、まぁ戦う意志を持ったとき、汝の心に浮かび上がるだろう」 そんなもんでいいのか? 「うむ、なんの問題もない」 そうかいやれやれだなまったく 「さて、彼奴に気付かれるわけにはいかんのでコレで失礼するが 意志を強く持て、必ず勝てる。」 あぁありがとよ…… 「…ョン、キョン」 あぁハルヒか、どうした? 「もうすぐ、12時間たつわ、さっきの奴また来るのよね?」 多分な 戦う意志か、大丈夫なんだろうか、あれを目の当たりにして俺は戦えるのか? くそ、思い出しただけで震えがとまらない…… 「お目覚めですね、どうですか動けますか」 大丈夫だ……と思う 「あっ、キョンくん!よかった」 「……もうすぐ12時間……くる!」 「やぁ揃っているようだね」 うっ……体が震える……汗もとまらない 「ちょっとキョン、大丈夫」 「涼宮さん、彼と朝比奈さんを連れて下がってください。ここは僕と長門さんで食い止めます」 俺も戦うぞ古泉 「目の前の敵に怯えているようでは足手まといです、下がってください 朝比奈さん、二人がいう事を聞かないようなら、あなたの能力で移動してください」 勝手なことを言うな、俺のどこが怯えているっていうんだ 「自分でもわかっているはずです 先程からぶるぶる震えて、冷や汗を全身に掻いてるあなたに何ができるんです」 くっ…… 言い返せない、でもこのままじゃ俺は…… 「キョンくん、涼宮さん行きましょう 私たちがいては邪魔になるだけですから……」 わかりました…… 「有希、みくるちゃん、古泉君……わかったわ。さぁキョン行くわよ!」 すまん、長門、古泉 「……ここは私たちが相手になる」 「ふふふ、実はまだ君たちの相手をする準備ができていないんだ」 「どういうことでしょう?」 「直にわかるさ、その間こいつらの相手をしてもらおうか」 なんだよこの音……何かが大地を揺らし、なおかつ這いずるかのような音 「朝比奈さん、彼らを連れて今すぐ離れてください!」 「わ、わかりました!二人とも目を瞑って」 くそ、結局逃げることしか出来ないのかよ俺は!! 「わかったわ」 「いきます!」 この感覚……時間遡行か! 「もういいですよ」 朝比奈さん、あれからどれくらい経ちましたか? 「ここは閉鎖空間の旧校舎、あれからわずかな時間しか経過していません」 そうですか、古泉たちは? 「グラウンドにいます」 「みくるちゃんすごいじゃない! 何?一瞬で部室棟に移動したの? すごいわみくるちゃん!」 「一瞬でというより、わずかな時間遡行です」 「もしかしてみくるちゃん未来人?」 「ふふ、涼宮さんの夢ならなんでもありですからね」 「そういえばこれはあたしの夢だったわね」 こうしてみると、あの朝比奈さん(大)の面影が出てきてるな これから一気に成長するのだろうな朝比奈さんは 『いいのかい?仲間に戦わせて自分は何もしなくて』 誰だ! 『誰だっていいさ、この空間のわずかな綻びを見つけてね、ちょっとお邪魔させてもらったのさ』 空間の綻び?それはもうすぐこの空間がなくなるって事か? 『そうじゃない、さっき混沌が召喚した時に綻びができてね、それを利用させてもらったのさ それでジョン・スミス、君はどうしたいんだい?』 俺は戦いたい、あいつらだけに戦わせたくない 『じゃあ、勇気を持つことだ どんな恐怖にも負けない勇気をね そして共に詠おう、生命賛歌を』 勇気…… 『私の知り合いにね、後味が悪い、胸糞悪い たったそれだけで正義の味方になった人がいる 君にもあるはずだよ、君だけの正義、君だけの勇気、君だけの愛がね それじゃあ私はそろそろ行くよ、意識を侵入させるだけで精一杯だったからね』 待ってくれ、俺はどうしたらいいんだよ! 『君はもう答えを持っている、自分で答えたじゃないか 戦う意志があるなら後は勇気を持てばいい』 「キョン!」 え?あ、ハルヒ? 「何ボーっとしてんの、部室に行くわよ、ここにいても有希たちの邪魔になるわ」 ダメだハルヒ、俺は戦いたい! そう言い切りかけたとき渇いた音が聞こえた……またハルヒに叩かれたようだ……左の頬が熱く痛い 「今のあんたに何ができるってのよ!震えて、冷や汗掻いて……死にに行くようなモノじゃない! 夢の中であってもあんたに死なれたくない、少しはあたしの気持ちもわかってよ!バカキョン!!」 ……くそ、俺はまだ震えてんのか、この期に及んでまだ…… 爆発音が響き古泉と長門が化け物の攻撃で、俺達のところに飛ばされてきた 古泉!長門!! 「すみません、油断しました。まさかあのような化け物が出てくるとは」 「……私達の戦闘能力だけでは抑え切れなかった……」 「さすがの情報統合思念体対ヒューマノイドインターフェイスも、ダゴンとヒュドラの群れには適わないようだね」 ダゴン?ヒュドラ?なんだそりゃ 「クトゥルーに仕える深きものどもの首領さ、どうだいすごいだろ」 「多勢に無勢です、このままでは」 「さぁよく頑張ったね、しかし人形と能力者一人じゃもう限界だろ? 僕は僕の目的を果たさせてもらうよ」 「え、うっ…あぁ…キョン!なにこれ……頭が痛い……あぁぅっ!……しゃい……にんぐ……とらぺぞ……へどろん…… なにこれ、何なのよいや、こんなのいやいやいやいや 何なのよこれ、こんな世界見たくない、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁ!!!!」 ハルヒ!落ち着けハルヒ!ダメだ、完全に取り乱してる なんだ、ハルヒに何しやがった、くそこの期に及んでまた足が震えやがる、動けよ俺の足!! 「少し面白い物を見せてあげてるのさ、僕たち邪神の住まう宇宙をね おっと、能力者に人形さん、君たちも動かないでもらおう」 「これは!?動けない!」 「ふえぇぇぇぇ!」 「……私たちの周囲に重力結界が発生、解除不可」 長門、朝比奈さん、古泉! 「勇気を、恐怖に立ち向かう勇気を持ってください」 「キョンくんだけが頼りです」 「……あなたならできる」 「そろそろ出現かな、あぁ出てきた出てきた」 くそ、なんだあれ…、金の箱?違う黒い、結晶体?なんだアレ、形が変わり始めた、なんなんだあれ! 「輝くトラペゾヘドロン、僕はね、あれを破壊したいんだよ。 この娘の力を使えば世界をまるごと改変できるけど それじゃあ面白くない、どうせならこいつを破壊する瞬間を連中に見せてやりたいからね さてそろそろ神人とやらにもご登場願おうか おそらく彼女が出した巨人ならあれに封じられることは無いだろうね」 てめぇ!! 「…………」 ハルヒ、ダメだ意識を失ってる くそっ、くそっ、俺には何にもできないのかよ、震えて黙って見てるしか出来ないのか俺は 今動けるのは俺だけなんだぞ、しっかりしろ!今動かないと絶対後悔するぞ 失わなくて済むモノを失うんだぞ、戦うんだよ俺!そうだ足を動かせ、拳を握り構えろ! うおぉぉぉぉぉ! 黒い化け物に一発、また一発、俺は何度も殴り付けた 「ふふふ、痛いじゃないか、震える体でよく頑張ったね人間。そんなに死にたいのかい?なら望みどおり君から殺してあげるよ!」 うるさい黙れ、死んでたまるか、俺はこいつらと生きるんだ! 生きて現実空間に戻るんだよ!! そう叫んだとき全身が光輝いた、後ろを見ると長門たちの動きを封じていた結界が消滅していた ハルヒはまだ気を失っている、でもさっきより楽になったみたいだよかった そういえば、夢で聖句がどうの言ってたな、なんだったかな 「あれは連中の……そうか、また彼らを愛せるんだね……ふふふ、さぁ人間早く早く、早く喚んでくれたまえ あぁ、楽しみだ楽しみだよ」 なんだこいつ……いや今は聖句だ……なんだったっけ……確か……確か…… 『さぁ人間、唱えよ!未来への路を開く無垢なる翼を汝の手でつかみとれ!!』 ……思い出した!! 「うぅん、キョン?」 ハルヒ、目覚めたかもう少しゆっくりしてろ 「うん……」 憎悪の空よりきたりて!! 正しき怒りを胸に、我らは魔を断つ剣を執る! 汝、無垢なる刃デモンベイン!! ……なんだよ、何も起こらないじゃないか、くそ! 「キョンさん、涼宮さんと一緒に聖句を唱えてはどうでしょう、もしかするとそういうものなのかもしれません」 そういうもんなのか? 「まぁこういのはお約束ってことで」 そうだな、だが顔が近いぞ古泉 ハルヒ、すまんが今のを一緒に頼む 「さっきのアレをするの?」 頼む! 「仕方ないわね、いい?一回だけだからね?」 それで十分だ!じゃあ行くぞ! 憎悪の空より来たりて 「正しき怒りを胸に」 「「我らは魔を断つ剣を執る!汝、無垢なる刃デモンベイン!!」」 唱えた瞬間、急に俺とハルヒの体が光り出した そして目の前に五望星が描かれ一際眩い光が放たれたと思ったらそこに誰かが立っていた 「人間、よく戦う勇気を持ち決意をした、後は我らに任せるがよい」 この声、夢に出てきた 「アル!」 「応!!」 「……ふふふ、あははははは、待っていたよ旧神・大十字九郎!!そしてアル・アジフ!!」 「久しぶりだな、ナイアルラトホテップ! 何度目かは忘れちまったが、あんたの企みこれまでだ! それにしてもまだ諦めてなかったんだな、輝くトラペゾへドロンの破壊をよ」 「久しぶりだね大十字九郎、僕が諦めるわけないだろう。 今度は輝くトラペゾヘドロンの衝突による破壊ではなく 人間の力で破壊しようと思ったのさ、まぁ成功する確率は低いけどね さて、もう少し僕の相手をしてもらうよ大十字九郎、6体の人形と遊んでいてもらおう」 「させるかよ、クトゥグア!イタクァ!!」 何だあれ、何もないところから火?氷?いや違う、拳銃だ 「……魔術」 魔術だぁ? 「ちょっとキョン!なんなのアレ!」 わからん、俺が聞きたい。それと、お前はまだ不思議を諦めてなかったのか 「当たり前じゃない!」 あぁわかったわかった、じゃあまた皆で不思議探索しようぜ。 「そうね!」 で、長門よ魔術ってなんだ?手品師みたいなもんか? 「違う、魔術とは魔導書と契約することで己の力とするもの 高位の魔導書になれば、意志を持ち、神を召喚することが可能」 神?この空間に出るアレみたいなもんか? 「違う、恐らくは最高峰の魔術で編み上げる巨神……!? 邪神に関する項目のプロテクトが解除された、原因は不明」 「私もです、邪神に関する禁則が解除されました、TPDDも正常に作動してます」 やれやれどうなってんだ、今回は 「あはは、あんたのその顔久しぶりに見たわ」 そうか? 「うん!」 そうかい 「まったくせっかちだねぇ君たちは、今出したばかりだってのにもう殺しちゃったのか まっ君たち相手に足止めになるとは思ってなかったけどね では能力者と人形の相手はこいつらにやってもらおうか」 今度は何だ……、おおおおおいなんだこいつら、半魚人か 「さぁ邪神の眷属よ、君たちの欲望を人間たちで満たして来るんだ」 『シャアアアアアアア!!』 「させるか!うおおおおおおおお!!」 ……俺は、いや俺たちは息を飲むしかできなかった 恐ろしいまでのスピードで邪神の眷属と言われた半魚人たちを全て倒してしまったからだ 正直何が起こったのかさっぱりわからん…… 「これを持ってここから離れろ!」 これは? 「それは妾のロイガーとツァールを模して作った小剣、そしてこれがバルザイの堰月刀だ 見たところ、小娘二人と汝は武器も無ければ特殊な攻撃能力を持っているわけでもない 人間、それを持ってこの場から離れよ!」 なるほど、自分の身は自分で守れって事か ってあんたたちはどうするんだ? 「ナイアルラトホテップを倒す、あっちの建物の一部に防護結界を張っておく そこに入ったら何があっても出るんじゃない」 わかりました…… 「人間、その小娘大切にするのだぞ。妾たちは彼奴を倒す、その後すぐに汝等を元の空間に戻してやる」 「お互い、苦労しそうな奴に惚れちまったが、頑張れよ」 あぁ、ハイ…… 「さて九郎、さっさと終わらせよう!」 「そうだな 憎悪の空より来たりて」 過去幾億回と繰り返された聖句を高らかに詠みあげる 「正しき怒りを胸に!」 正しき怒りに応え、全ての悪に等しく滅びを与える 「「我らは魔を断つ剣を執る!!汝、無垢なる刃!!」」 最弱にして無敵の剣、汝の名は 「「デモンベイン!!」」 爆ぜる光、闇を照らす聖なる光 五芒星が覇道を往く者の紋章が、灰色の世界に光と色を与える 今度は外が明るくなったなって、なんだありゃ!! 「……鬼械神、機械仕掛けの神、全ての悪を打ち滅ぼす神像、デモンベイン」 え?なんだって? 「で、デモンベインです」 朝比奈さんまで…なんですか、そのデモンベインって 「……説明はあと、あなたは涼宮ハルヒを守るべき 彼らの防護結界は部室に張られている、今は一刻も早く部室に行くべき 私の力ではこれから起こるであろう事象に対処できない」 そうだな そしてまたもや世界が揺れる、それも一度に6箇所で ハルヒ立てるか?ここは危険だ、部室に行くぞ 「わかったわ」 ここは危ないさっさと部室に行こう 防護結界とやらを張ってくれているなら一番安全だ 「それでは僕が追っ手を抑えます 先頭は長門さん、左右にはあなたと朝比奈さん、中央に涼宮さんです」 わかった、朝比奈さんにはこの小剣の片方を渡しておきます そういえば朝比奈さんは武器を持ってないんですか? 「武器の携行は禁止されてますから…… そ、それじゃこの小剣お借りしますね」 ハルヒお前もこれを持っておけ、俺たちだけで対処しきれない時は自分で自分の身を守るんだ 「あんたがあたしを守りなさい、団長命令よ!」 わかったよ、じゃあ部室に急ごう しっかし多いなぁこの半魚人どもは 「後ろもかなりの数です、しかし通常の閉鎖空間と比べ僕の力はかなり上がっています ですから僕に任せてください」 前方は長門が朝倉と同じ攻撃方法で撃退してくれてるが、如何せん数が多すぎる 「……問題ない、しかし0.1%ほど撃ち漏らしている、あなたと朝比奈みくるはそれを撃退して」 分かった バルザイの堰月刀ね、……どうせなら 虎王斬神陸甲剣!! 『グギャアアアアアア』 すげぇ、なんて切れ味だ……しかしグロいな…… 「おやおや、ノリノリですね」 黙れ古泉 「ふえええええ、こっちに来ないでくださぁい!」 朝比奈さんに渡したロイガーの刀身から風刃が巻き起こり、ばったばったと細切れにされていく あの人たちはなんつう危険なもんを…… 「見ろ九郎、ロイガーを持った小娘を、あ奴魔術の才があるぞ」 「そうみたいだな、というかアル」 「なんだ?」 「ロイガーってあんな使い方もできたのか?」 「……まったく汝と言う男は……ロイガーの属性を考えれば当然だ、無論非公式だがな!」 「非公式って……そんなメタ発言して、怒られるだろいろんな所から!」 「問題ない、所詮この作者の妄想だ。」 「いや、そりゃそうだが……」 「それよりも九郎、雑魚共が動き出したぞ!一気に片付けろ!」 「応!!クトゥグア!イタクァ!神獣形態!!」 「さすが大十字九郎だ、ダゴン程度じゃ足止めにもならないか じゃあ次はデウスマキナが相手だ」 なんだ今のは! 「……旧支配者であるクトゥグアとイタクァ」 それってさっきの銃じゃなかったのか? 「……銃は力を制御するための器に過ぎない、今のが真の力」 「しかし本当にすごいですね、大十字九郎さんにアル・アジフさんと言いましたか 僕たちが苦戦したあの化け物を瞬殺とは、恐れ入ります」 「アルアジフ?それってネクロノミコン、オリジナルの名前じゃない!!」 なんだそのネクロノミコンって 「西暦730年ダマスカスにて、狂人アブドゥルアルハザードが書いた魔導書です キョンくん、今後も涼宮さんと一緒にいるなら、これくらい憶えておいた方がいいですよ」 そうですね、って待てよさっきの少女がその魔導書とか言わないよな?さすがに 「それはありえません、いくら強力な魔導書といえど人の姿をするなどとは思えません」 「彼女は間違いなく魔導書アル・アジフ、力ある魔導書は魂を持ち姿を変え、神の模造品を召喚できる」 じゃあ、あのロボットが神の模造品っていうのか? 「あれは神の模造品の模造品、人間のための鬼械神(デウスマキナ)、それがデモンベイン」 さっぱりわからん…… 「あんたの頭じゃ考えるだけ無駄よ」 そうだな、……って遠まわしに馬鹿って言うな 「団長様に心配ばかりかける団員は、バカで十分よバカキョン!」 へいへい、さてこっちも粗方片付いたし、ようやく部室に着いたな 「部室棟に入ってからは、あの半魚人の数も減りましたからね」 それじゃ一息入れますか 「あっ、じゃあお茶煎れますね」 ありがとうございます」 ……しかし、緊張感のかけらもないな…… 「まったく、困ったものです」 顔が近い、よるな気色悪い 「九郎、このままでは埒があかない!アレで往くぞ!」 「応!断鎖術式壱号ティマイオス!弐号クリティアス!!」 「ふぇ!何ですか?何でこんなに時空が!」 「……現在戦闘中のデモンベイン脚部シールドから時空間歪曲を観測 そして元に戻ろうとする時空間の反発力で機動力を得る さらにそのエネルギーをぶつけることで凄まじい破壊力を生み出す」 「アトランティス!」 「「ストライィィク!」」 すっげぇ、延びてきた腕かわしながら、頭上に踵落しを食らわせてさらに銃弾ぶち込んでやがる 「残り5体」 おっ、今度は刀持った奴だ 上とか横からの攻撃をかわしながらよくやるなぁ…… って何だあいつ、脇から腕だしやがった!隠し腕ってやつだな 「光射す世界に汝等暗黒凄まう場所なし! 渇かず飢えず無に還れ!! レムリア!インパクトォォォ!!」 「昇華!!」 「……無限熱量による近接昇華、あれを食らえば一溜まりも無い、後4体」 すっげぇ…… 上からの攻撃に加え、金ピカおきあがりこぼしのレーザーに、黒い弾を撃ってきてる奴か こいつは厄介だな おっと黒い弾の流れ弾…… おいおい、何の冗談だ、人の顔が窓に映ってるぞ 「キョン!幽霊よ幽霊!早くカメラを持ってきなさい、心霊写真として雑誌に投稿するわよ!」 ハルヒ、あれだけは止めとけ、いやホラ何か声みたいなのも聞こえるし 「何言ってるの、こんなチャンス滅多に無いわよ、早くカメラ持ってきなさい!」 あぁハルヒ 「何よ」 言いにくいのだが 「だから何よ」 消えちまったみたいだぞ幽霊 「あぁぁ!もうこのバカキョン!せっかくの不思議だったのにもったいない……」 夢の中なんだし、撮っても仕方ないだろ、第一どうやって現実の世界に持っていくんだ 「それもそうね、夢なら仕方ないか……夢ならね」 何か言ったか? 「別に!」 とこんな問答を繰り返してる間にも外では戦闘が続いていた 「ニトクリスの鏡!」 今度は分身か? 「違う、鏡を使った魔術、現実と虚構の境界をなくし、幻を見せている」 でも長門、何かその幻、鏡みたいに割れてるぞ 「……そう」 「クトゥグア!イタクァ神獣形態!」 至近距離でそれを撃って大丈夫なのかあのロボット 「……直ぐに離れているから問題ない」 みたいだな…… 「本当にすごいですね、見てください」 おぉ、あの二匹地上にいるもう一体の奴を襲ってやがる 「地上の敵は終わったみたいですね」 しかし、空中の敵はどうするんだ? 「シャンタク!」 今度は翼か……なんでもありだなこのロボット…… 緑の方はすばしっこいなぁ、どうやって倒すんだ? おっ、あれはリボルバーだなあれでどうする気だ どこ狙ってるんだ、全然ちが「マッガーレ」 ……気のせいだ気のせいにしておこう 「気のせいではありませんね、残念ながら 弾道が確かに曲がりました」 お前の仕業か古泉 「いいえ、どうやらあれは自動追尾弾のようです 的確に動力部を貫いたようですよ」 とどめはさっきの無限熱量ってやつか 残りはあのデカ物だな 「すごいですねぇ、自動拳銃とリボルバーが融合して長距離砲になりましたよ」 あれで撃ち貫くってわけか 「そのようですね、っ!撃ちましたよ」 一撃かよ…… とまぁこんな感じでこの戦いを見ていたわけだが ほんと、俺の日常ってどこにいったんだろうねぇ誰か教えてくれ 「さぁナイアルラトホテップ、後はあんただけだぜ」 「まったくさすがだよ君たちは、仕方ないここは退こうか」 「この空間から簡単に逃げられると思うな、邪神よ」 「そうだね、ならまずは君たちから死んでもらうよ!」 「荒らぶる螺旋に刻まれた」 「神々の原罪の果ての地で」 「「我らは今聖約を果たす」」 「「その切実なる命の叫びを胸に」」 「「祝福の花に誓って」」 「「我は世界を紡ぐ者也」」 デモンベイン最強にして最凶の必滅奥義 第零封神昇華呪法 輝くトラペゾヘドロン おいおい、あっちの奴あそこにある奴と同じもん出しやがったぞ 「……デモンベインが握るモノが本物、恐らくナイアルラトホテップの封印と同時に消滅する」 「大十字九郎ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」 「大人しく眠ってな、永遠にな」 「紛い物のトラペゾヘドロンも消えた、今回も終わったな九郎」 「あぁ、さてアル、さっき現実空間に戻してやるとか言ってたがどうすんだ?」 「ふむ……」 「あっ、お前何も考えてないな!そうだろう!」 「これも運命だ諦めよ」 「またそれか!」 「さてな」 なんか、痴話喧嘩みたいなのが聞こえるなぁ 「……オワタ\(^o^)/」 どうした長門? 「……なんでもない」 「お疲れ様ですキョンくん」 あぁ、ありがとうございます 「さてここから出る方法ですが」 ……っゴホン! 「そ、それよりもキョン、説明してくれるんでしょうね!」 な、なんのことだ? 「有希たちの事、あたしに隠れて何をしてたのか、きっちり話してもらうわよ!」 お、おい古泉 「しかし、綺麗ですねデモンベインは」 朝比奈さん? 「ホントですね」 長門! 「……」 ……しっかし、綺麗だなあのデウスマキナってやつは 「そうね、それよりキョンあたしを待たせた罪で罰金だからね! それと今回のことと有希たちのこと、その時にたっぷり説明してもらうから、覚えてなさいよ!!」 ……えぇい、仕方ない!罰金はとりあえずこれでカンベンしといてくれ 「え?んん!」 ハルヒ、また学校でな…… こうして俺は自室で目が醒めた、気分のいい夢だった、夢ではないんだけどそういう事にしておこう さて、ハルヒがこれを夢と認識してくれればいいんだが…… ん?メールか from古泉 お帰りなさい、先の閉鎖空間で涼宮さんの力は失われました それと同時に僕の力もなくなりました これで僕はなんのしがらみなく、あなたたちと付き合えます 僕たちの事は、あなたから涼宮さんに話してあげてください 涼宮さんが力を失った以上、隠す必要もありませんからね 今までありがとうございました、そしてこれからもよろしくお願いします しかし、ようやくあの閉鎖空間から回帰できた理由がわかりました こういうことだったんですね ではまた部室で To古泉 うるさい、黙れ、営業スマイル面を写メで送ってくるな気持ち悪い オセロでボコボコにしてやるからおぼえとけ ……いろいろ迷惑かけたなありがとよ from朝比奈さん キョンくん、お帰りなさい、時空の歪みも消えて未来が固定され、涼宮さんの力もなくなりました これで私の任務も終わりです 大学卒業までこの時間平面に居ていいと許可がおりました 卒業後お別れになっちゃいますけど、それまでよろしくね そういえば、あれが閉鎖空間から帰ってくる方法だったんですね 眠るお姫様を起こすためのキスだなんて、まるで白雪姫ですね! 涼宮さんと幸せになってくださいね To朝比奈さん そうですか、とうとう帰ってしまうんですね。 また部室にも顔を出してください朝比奈さんなら大歓迎です あの時の朝比奈さんのビンタ効きましたよ、ありがとうございました from長門 お帰りなさい 涼宮ハルヒの能力は完全に消失した 情報統合思念体は私に蓄積するエラーこそ自律進化の可能性と認識した。 情報統合思念体はあなた達に感謝している 私という固体もあなたに感謝している 情報統合思念体は私の能力にプロテクトをかける事と、私に蓄積するエラー情報の提供を条件に、この世界で生きていいと言っていた。 また図書館に To長門 そうか良かったな長門、それから今までありがとな また図書館に行こうな さてまだ時間も早いし、もう一回寝るか 今日は月曜、学校に行くのにハルヒとセットでくまなんか作ってたら、谷口あたりに何言われるかわからんからな そしてまたこんな夢をみた、あの閉鎖空間で俺たちを助けてくれた二人組みの夢だ 「よく頑張ったな人間、人間でここまで邪神に立ち向かったのは九郎以外で汝が初めてだ ロイガー・ツァール・バルザイの堰月刀は返してもらうぞ」 「急にあの空間が消え始めた時は焦ったな」 「確かにな、汝一体結界内で何をしたのだ? まぁ、またあ奴が現れたら遠慮なく聖句を唱えよ」 「俺とアルとデモンベインがすぐに駆けつけるぜ」 「あの小娘の力は妾達で消しておいたからその心配はないと思うがな では九郎往くとしようか」 「あぁそうだな。それよりアル、子供が欲しいと思わないか?」 「無茶を言うな、妾達は戦いの日々を送らねばならんのだ それに妾は魔導書だ子供ができるかどうかもわからぬ 仮に子供が出来ても、戦いで汚れた妾達の手では……」 「そうだな……、まぁそん時は姫さんにでも頼んでみるか」 「また覇道の小娘に頼るのか汝は!」 「頼れるのは姫さんとライカさんくらいだからな」 「まぁ、出来た時はそうするしかないが、なるべくは作らないようにするからな九郎」 「あぁわかってるよ」 (と言うより、あんなもので毎日毎日……) 「どうしたアル?顔が赤いぞ」 「うつけ!」 「いつまでも長居してないで往くとするか、じゃあなジョン・スミス、幸せにな」 「さらばだ人間」 まったくこの人たちは……俺の夢に何度も入ってきては、最後に夫婦喧嘩までしていくなんて…… もういないかもしれませんが、ありがとうございました ん?そういえばあの時語りかけてきた奴も、この大十字さんも何でジョンスミスを知っているんだ? こうしてデモンベインと呼ばれていたロボットの手に乗り彼らは去っていった 彼らが離れていくにつれ、俺はいつかハルヒに話そうとした幸せの青い鳥の話を思い出していた 「キョン!キョン!!起きろ!!!」 ん?なんだハルヒか…は?ハルヒ? 「学校行くでしょ?」 あぁ、それよりなんでお前がいるんだ! 「別にいいじゃない」 2ヶ月と1週間ぶりってとこか、それよりハルヒ着替えるから部屋から出てくれんか 「あっ…そ、そうねじゃあリビングで待たせてもらうから、さっさと着替えてくること」 わかったわかった 「すまん、待たせたな」 「いいわよ、それよりあの灰色空間のこと説明してもらえるんでしょうね?」 「わかったよ、いいか・・・」 とまぁハルヒに閉鎖空間のこと、長門や朝比奈さん、古泉のことを教えてやった まぁさすがにアレを目の当たりにすれば、さしものハルヒも信じるしかなかったようだ ハルヒの能力については、ハルヒの機嫌が悪くなったりすると閉鎖空間が発生する程度しか言わなかった これ以上喋ってまた能力を発現されても困るからな ジョン・スミスについて話したのかって?それはまたもう少し後の話しだ さて今日から学校に復帰するわけだが、授業も遅れてるし、出席日数も危うい せめてハルヒと同じ大学に入れるよう勉強しないとな、……そうだな、ハルヒに勉強見てもらうか こうして俺は学校に復帰した 試験結果はハルヒ教諭のおかげでそれなりの結果だった だが出席日数が僅かに足りず、3月に補習を受けることで何とか卒業することが出来た SOS団全員で同じ大学に合格し、朝比奈さんが未来に帰るまでの間遊びと学業を共にした。 朝比奈さんが大学を卒業する頃にはもうあの朝比奈さん(大)になっていた 未来に帰ってしばらくしたら、高校生の俺に会うのだろう、白雪姫と星型の黒子を伝えに 俺はと言うと4年の春に就職もきまり、あとは卒業に向けて遊ぶくらいしかやることがなくなっていた せっかくなので暫くアルバイトをすることにした なんのためかって?そりゃ決まってるハルヒとの結婚資金を少しでも稼ぐためだ 今日はSOS団の団活の日だ、朝比奈さんはこれないが、俺たち4人で結構楽しくやっている 長門と古泉はいつのまにか付き合いだしていた そうそう、あの事件結局なんだったのかと言うと 邪神ナイアルラトホテップが仕組んだことだったらしい 何をしたかったのかというと、既に失われた輝くトラペゾヘドロンをハルヒの力で創造し それを破壊することで、アザトースの庭とやらを解放するのが目的だとか 解放したらどうなるのかきいたが長門は答えてくれなかった 知らない方がいいらしい、そうだな知らない方がいいかもしれん 旧神とやらは何だったのかと言うと、邪神ナイアルラトホテップを追っていたらしい あらかじめどこに出現するか分かっていたが、彼らの力だけでは閉鎖空間に入れなかったのだと だから俺とハルヒで聖句を唱えることであの場に顕現できたというのだ さすがはハルヒだ、神様と崇められていただけの事はある 邪神はどうやって入り込んだかと言うと、俺にくっついて入ったらしい でもあの時、俺がハルヒにあいつら呼ぶよう言わなかったら確実に死んでたな俺 もしハルヒが情報爆発を起こしていたら、どうなってたんだろうなこの世界 本物のハルヒが居る場所を教えてくれたあの声に感謝だ でもあの声旧神て呼ばれてた人に声が似てたな できればもう一度会って話しがしたいものだ そういえば、さっきから奥の席が騒がしいがなんだろうか そこにはどこかで見たことのある二人がいた こっちに気付くと、男の方が俺たちのところに来た 「よっ、元気そうじゃねぇか、まっこれからも頑張れよ!」 「九郎、もう行くぞ!」 少女に引っ張られて男は去っていった、あぁそうか彼が大十字九郎さんか あの時はありがとうございました、大十字さん! 聞こえたらしく、手を振っていた 「知り合い?」 とハルヒが聞いてきたので 高校の時世話になった人だと返した 「そう、ならいいのよ。今度会ったらあたしもお礼言わないと」 だがこの後彼らと会うことは無かった 当然だ邪神とやらと戦う彼らに安息の日々は無いのだから さて今日の班分けはっと… 俺とハルヒは色つき、古泉と長門は色無し なぁこの組み合わせなら、Wデートでいいんじゃないか? 「いいですねぇ、僕は賛成ですよ」 「……異議なし」 「古泉君と有希がいいならそれでいいわよ!」 もしもあの時選択を誤っていたら、俺は今頃あの頃に戻りたいと願っていたかもしれない でもあいつの笑顔があれば、あの頃に戻りたいなんて思わない そう、ハルヒの太陽のような笑顔があれば他には何もいらないのさ -Fin- -古泉サイド- と、彼が締めてしまいましたが僕の方でまた少しだけ続けさせてもらいます あの時は驚きました 突然機関の皆さんがいる前で閉鎖空間の入り口が現れたのですから 他の能力者はまったく気付いていない様子でした その時発生していた閉鎖空間と同じ境界でその入り口があったのです もしかしたらと思って、それに触れるとなんなく入れました 僕だけが入れるのでしょうねあの入り口は 入ったら入ったでまた大変でした、能力を使って学校まで行き、そこで長門さん、朝比奈さんと合流しました 一番驚いたのは朝比奈さんです、どうやってきたのかとたずねたら 突然頭にここの空間座標が送られてきたそうで、TPDDを使い侵入したそうです 長門さんもほぼ同様でした 異常事態でしたね、僕だけじゃなく長門さん、朝比奈さんまでこの空間にいるのだから 部室に行くとそこには漆黒の闇を纏ったようなそんな感じの化け物がキョンさんを襲っていました 僕は急ぎ光の球を作りだし化け物に投げつけました 正直驚きました、いつもの20倍の威力でしたからね、それでもこの化け物には通用しなかったのですが…… 化け物が時間をくれるそうなので、一旦保健室に退避して長門さんに彼の治療をしてもらいました 涼宮さんも疲れていたのでしょうね、彼の治療が終わるとすぐに眠ってしまいました 僕たちは外で彼らを起こさないよう対策会議を始めましたが、結局いい案が浮かびませんでした しかしここで、長門さんが以前彼の精神に入ったときにあった女性が、彼に聖句を教えたことを聞かされました この聖句が勝利の鍵であることを確信した我々は彼らを守ることに専念することにしました 結果は重力結界やダゴンと呼ばれた化け物のおかげでさんざんでしたけども 後は皆さん知っての通りです そういえば、あの時部室に直接時空移動すればよかったんですが 残念ながら彼らが張ってくれた結界の影響で、移動できなかったと朝比奈さんが言ってましたね 僕は卒業と同時に長門さんに僕の想いを伝えました ですがこのときは振られましたねやっぱり 長門さんがキョンさんを好きだという事は知っていましたから でも大学2年の時ですか、長門さんから僕にアプローチがありまして そこでようやく僕と長門さんは恋人同士になったわけです 涼宮さんが好きじゃなかったのかって? 確かにそうですが、僕にとって彼女は高嶺の花ですよ あの太陽のような笑顔は僕ではなく、彼に向けられているのですから え?それではどうして長門さんを好きになったのかって?んっふ、禁則事項です そして大学4年になってキョンさんの就職が決定して少ししてから 何かいいバイトが無いかと相談を持ちかけられまして ちょうど機関で人手が足りないからどうか?と答えました 機関は彼に特別恩がありますからね、さて大学卒業後の七夕の日にサプライズを用意しておきましょう これは僕たち機関に所属するもの全員からのお礼ですからね クリスマスに僕たち機関からのクリスマスプレゼントとして、彼らに教えてあげましょう。今からならたっぷり準備期間もありますし 彼は彼でこの七夕にプロポーズするそうです、何でもその時にジョンスミスの話しもするそうですよ んっふ準備のし甲斐がありますよ 実は僕は僕でもう長門さんにプロポーズをしてしまいまして、もちろん答えはYESでしたよ W結婚式なんて涼宮さんがきいたらどんな反応するんでしょうか 実に楽しみです、あぁもちろん長門さんもこの計画知ってますよ。さてこのくらいにしておきましょうか それでは皆さんにも幸せが訪れますように そして僕からの忠告です、あの頃に戻りたいなどと考え邪神に惑わされないでください その邪神はいつどこであなたを狙っているかわかりませんからね それに、未来は悪いことばかりではありません、自分自身でどうにでもなるのです もちろん、どうにもならない事もあります。ですが、そこから自分でどう修正するかで、また未来は大きく変わるのです -TheEnd-